産業技術総合研究所(産総研)は2月12日、半導体型単層カーボンナノチューブ(CNT)を選択的に成長させる技術を開発し、さらに同材料による薄膜トランジスタの特性向上を実証したと発表した。
同成果は、同所 ナノチューブ応用研究センターの畠賢治首席研究員、スーパーグロースCNTチームの桜井俊介主任研究員らによるもの。詳細は、3月3日~5日に東京大学にて開催される「第46回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム」で発表される。
半導体型単層CNTは、その高い移動度などから、大規模集積回路(LSI)を低消費電力化できるトランジスタ材料として期待を集めている。また、その柔軟性から、従来の半導体材料では達成できない、曲げ、伸縮、印刷による作製が可能な材料としても注目されている。単層CNTには、炭素原子の並び方によって半導体的な性質を示すものと金属的な性質を示すものがある。半導体型単層CNTに金属型単層CNTが多く混入すると、CNT電界効果トランジスタは本来の特性を発揮できず、一般的な半導体のトランジスタより特性が劣り、用途も限られてしまう。金属型単層CNTと半導体型単層CNTの構造の違いはわずかであり、従来の単層CNT合成技術では半導体型CNTと金属型CNTの作り分けが極めて困難だった。また、合成後に単層CNTの混合物を金属型と半導体型へ分離する技術も開発されているが、1%程度の金属型CNTが残存してしまう点や、分離プロセスに伴うコストなどの課題があった。
CVD法は最も広範に用いられている単層CNTの合成法であり、加熱された炉内、還元雰囲気中で、基材に担持された金属触媒微粒子を調整し、これに炭化水素を供給してCNTを成長させる。今回は、成長するCNTの構造との関係が強い金属触媒微粒子の構造に着目し、これをCNTの成長前に炉内のガス雰囲気で調整する方法を考案した。すなわち、鉄触媒の微粒子に水分と水素の混合ガスを供給して触媒を調整し、混合ガス供給を停止した直後に原料である炭化水素ガスの供給を開始して単層CNT薄膜を合成する。今回、水分と水素量を最適化して、最大で98%の高い選択率で半導体型単層CNTを合成した。
今回開発した手法によって合成された単層CNT薄膜では、単層CNTのネットワーク構造が形成されている。この薄膜をチャネル層として用いた電界効果トランジスタを試作した。従来のCNT合成技術によるCNT薄膜には金属型CNTが多く混ざっており、これを用いたトランジスタでは回路のショートを防ぐために100µm程度のチャネル長が必要だったが、半導体型単層CNTを選択的に成長させたCNT薄膜を用いたトランジスタは5μmという短いチャネル長でも、オンオフ比が1万以上、移動度が17cm2/Vs、オン電流が1.3S/mと、従来技術によるCNT電界効果トランジスタを大きく上回る特性を示したという。
この結果は、半導体型単層CNTの分離技術を組み合わせて半導体型単層CNT純度をさらに向上させれば、電界効果トランジスタ特性のさらなる向上が可能であることを示している。これらにより、単層CNTが酸化物半導体などの材料特性を上回ることは十分可能と見込まれ、従来にない柔軟性や集積度を持つフレキシブル電子デバイスやLSIの次世代材料への応用の実現が期待される。
作成した単層CNT電界効果トランジスタの伝導特性。(左)ドレイン電流-ゲート電圧、(右)オン電流-オンオフ比プロットによる過去のCNT電界効果トランジスタとの特性比較。右上に行くほど優れたトランジスタであることを示している |
今後は、半導体型単層CNTの成長選択性を維持しながら、より高収量、高密度に合成する技術の開発を進める。将来的には塗布技術などと組み合わせて高集積フレキシブル回路の実現や、次世代LSI材料への応用を目指すとコメントしている。