東京工業大学(東工大)は2月7日、28Gbpsの伝送が可能な60GHzミリ波無線機を開発したと発表した。
同成果は、同大 大学院理工学研究科の松澤昭教授、岡田健一准教授らによるもの。詳細は、2月9日~13日に米国サンフランシスコにて開催されている「国際固体回路会議(ISSCC) 2014」にて発表される。
現在、携帯電話や無線LANなどの公衆向け無線通信機器には、6GHz以下の周波数が利用されている。しかし、6GHz以下の周波数帯はすでに様々な無線通信に利用されており、それぞれの無線通信規格で利用できる周波数帯域はごく限られている。実用化されている中で、一番高速な無線LAN規格であるIEEE802.11acでも、5GHz帯における160MHzの周波数帯域しか利用できない。無線伝送速度は周波数帯域で制限されるため、このような逼迫した6GHz以下の周波数を利用する限り、これ以上の大幅な速度向上は期待できない。
そのような中、近年注目を集めているのが60GHz帯を用いるミリ波無線通信である。60GHzでは最大で9GHzの周波数帯域が免許不要で利用可能であり、大幅な通信速度の向上が期待できる。60GHz帯無線規格にはIEEE802.11ad、WiGig、WirelessHD、IEEE802.15.3c、ECMA-387/ISO/IEC13156などがあり、共通して4チャネルの割り当てがあり、それぞれ2.16GHzの帯域を持ち、4チャネル合わせると8.64GHz帯域となる。これは、5GHzを利用するIEEE802.11ac規格で利用される160MHz帯域に比べて54倍広い。RFフロントエンドのデータレートとして、64QAM変調を用いれば1チャネル2.16GHz帯域当たり10.56Gbpsの無線通信が実現できる。また、16QAMによって、4チャネル束ねた8.64GHzで28.16Gbpsの無線通信が実現できる。今回開発された無線機では、64QAMによる10.56Gbpsと16QAMによる28.16Gbpsの両方を実現したという。無線機はデジタル回路で、一般に用いられるシリコンCMOS集積回路として実装可能で、回路面積は3.9mm2と小さい。消費電力は送信機が186mW、受信機が155mW、発振器が64mWと低く、携帯電話などのモバイル機器に搭載できるとしている。
各国の60GHz帯周波数割当。国ごとに利用できる周波数帯域は異なるが最大で9GHzの周波数帯域が免許不要で利用できる |
60GHz帯無線機における変調方式と伝送速度(1チャネル当たり) |
16QAM変調による帯域と伝送速度 |
研究グループでは、まずミキサファースト型の送信機を開発した。これにより、従来方式では変調帯域が広げられず、伝送速度を20Gbps以上にすることができなかった問題を解決した。ミキサファースト型送信機により、ベースバンドにおける超広帯域特性を実現した。受信機ではFlipped Voltage Followerによる広帯域高線形開ループアンプを用いた。また、位相雑音改善のために、以前研究グループが発表した注入同期型の発振器(QILO)を用いた。
具体的には、ソフトウェア無線用受信機として知られていたミキサファースト型受信機の技術を、ミリ波帯送信機に応用した。ミキサファースト型受信機ではRF信号がミキサに入力され、BB信号(BaseBand)に変換される。RF入力側から見ると、ベースバンドのLPF特性がアップコンバートされてBPF特性を実現できる。一方、ミキサファースト型送信機では、BB入力側からみると、RF側のBPF特性がダウンコンバートされてLPF特性を実現できる。この作用を用いると、BB側において5GHz以上の非常に広帯域な利得および入力インピーダンス特性を実現できる。ミリ波帯において、10GHz以上の利得の平坦性を実現するのはBB帯に比べて容易であることに基づく。ミリ波側の利得および入力インピーダンスの広帯域平坦性を、抵抗帰還型の差動増幅器とパッシブミキサを組み合わせることにより実現したとしている。
同無線機は、CMOS 65nmプロセスによって製造された。デジタル回路で一般に用いられるシリコンCMOS集積回路として実装されている。回路面積は、送信機が1.035mm2、受信機が1.25mm2、発振器が0.90mm2、制御回路が0.67mm2。60GHz帯で規定される4チャネルすべてにおいて64QAM変調による送受信を確認した。変調性能を表すEVMで-29dBを達成している。また、送受信込みのEVMにおいて-26dBの性能を達成した。64QAM利用時の伝送速度は1チャネル当たり10.56Gbps。4チャネル全て束ねて利用することにより16QAM変調で28.16Gbpsの伝送速度を達成している。