東京工業大学(東工大)は1月30日、ペロブスカイト型コバルト酸化物(Pr0.5Ca0.5CoO3)に光を照射することで新しい磁性金属状態を創製するとともに、それがドミノ的に試料奥行き方向に伝播していく様子を可視化することに成功したと発表した。
同成果は、同大 理工学研究科の沖本洋一准教授らによるもの。
現在、レーザーパルス光照射による固体の電気的、磁気的性質の高速制御の研究が注目を集めている。これは、光誘起相転移現象と呼ばれ、基礎物理学的観点、および高速スイッチングデバイスへの応用の観点から興味深い現象であるという。
今回の研究では、スピンクロスオーバー転移を示すコバルト酸化物に注目し、その光照射効果を調べた。スピンクロスオーバー転移とは、鉄やコバルトなどの遷移金属原子中の電子のスピン状態が、強い電子-格子相互作用により磁性状態と非磁性状態間を変化する現象で、特に鉄の有機錯体系などで光照射によるスピンクロスオーバー変化(光磁性効果)がよく知られており、研究されている。今回、有機錯体系よりはるかに安定・堅牢であるセラミック化合物であり、スピンクロスオーバー物質として知られるコバルト酸化物Pr0.5Ca0.5CoO3に注目し、光で創られる光磁性相生成の探索的研究を行った。
実験では、高速レーザパルス(波長800nm)を試料に照射し、その後の光反射率の時間依存性を中赤外~可視光領域まで測定し、データの電磁気学的解析を行った。その結果、光照射によってコバルト原子の磁性が発生し、金属化することが分かった。さらに、励起されたコバルト原子は実空間でドミノ的に増殖していくこと、および1つの光子が約80サイトのコバルト原子を磁化できること、などが明らかになった。このような高い光変換率は、ドミノ的な励起状態の増殖によるものであり、鉄系や、一般の光化学反応で見られるような1光子が1つのサイトを励起する通常の光照射効果とは本質的に異なる現象である。
応用に向けては、このドミノ効果発生の動作温度が-190℃と低いことが課題であり、今後、類似のコバルト系で動作温度の高い応答を示す試料を探索していく。また、このドミノ発生の起源はまだ明らかになっていないが、レーザ光照射により生じた衝撃波が相転移を助けている可能性が示唆されており、高速のX線パルスを使った原子位置を直接見る研究を行うことにより、その起源を解明していくとコメントしている。