九州大学(九大)は1月29日、水蒸気を多分に含む燃焼後排気ガスの中から二酸化炭素を高効率に回収可能な新規材料「温度応答性吸収フィルム」を開発することに成功したと発表した。

成果は、九大 大学院工学研究院 化学工学部門 三浦研究室の星野友 准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、1月23日付けで独学術誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

火力発電所や工場、自動車から排出されるCO2は、地球温暖化ガスとしてその排出量の削減が求められており、それを実現するためには排気ガスからCO2を選択的に分離、回収する材料や技術が必要だ。しかし、既存の材料はCO2を分離するために莫大なエネルギーを必要としており、いかに省エネルギーで効率のよいCO2の分離材料を開発できるかが鍵となっている。

星野准教授らは今回、CO2吸収能のある「アミン」を温度応答性のゲル粒子に導入し、ゲル粒子を基板表面に塗布することで温度応答性のCO2吸収フィルムを開発(画像1)。同吸収フィルム内のゲル粒子は、温度変化に素早く応答して可逆的に膨潤・収縮し、同時にCO2を吸収・放散する仕組みだ(画像2)。

画像1(左):温度応答性吸収フィルムの作成方法模式図。画像2(右):温度応答性吸収フィルムの内部構造

これまで多くの固体吸収材料が開発されてきたが、既存材料の多くは水蒸気を含むガスからのCO2の回収には不向きだった。そのため、排気ガス中の水分をあらかじめ除去する必要があり、このプロセスに多大なエネルギーを要していた。

例えば、火力発電所からのCO2の回収法としては、アミン水溶液を用いた化学吸収法(画像3)が最も実用化に近いといわれる。しかし、既存のアミン水溶液を用いると排ガスから選択的に吸収したCO2を放散(分離)するために大量の水を含む溶液を高温に熱する必要があるのだ。この加熱のために多大なエネルギーを要する。よって、水の含量が低く、かつ低い温度でCO2を放散可能な吸収材の開発が求められていたというわけだ。

そして今回の温度応答性吸収フィルムに用いたアミン含有ゲル粒子は、わずかな温度変化に素早く応答して可逆的に膨潤・収縮するため、低い温度でCO2を放散可能だ(画像4)。また、水の含量が既存のアミン水溶液よりも少ないため、省エネルギーのCO2分離材料として期待されているのである。そのアミン含有ゲル粒子を用いた今回の温度応答性吸収フィルムは、湿った環境で100%機能を発揮できる点も特徴だ。発電所や自動車などの水分を多分に含む燃焼後排ガスからの効率的なCO2回収が可能である。

また今回の材料は、CO2の排出量を大幅に削減する「Carbon Capture and Storage(CCS)」や燃料電池システムなど、水素製造におけるCO2分離プロセスのコア材料としても期待されるという。

画像3(左):アミン水溶液を利用した既存の大規模CO2回収プロセス模式図。画像4(右):アミン含有ゲル粒子の温度に応答した構造変化と可逆的なCO2の吸収・放散挙動の模式図

今後研究チームでは、今回の材料をさらに進化させることで、火力発電所や工場、自動車などから発生するCO2を回収する省エネルギーで高効率な材料および装置の開発を行っている。将来的には、企業と連携し実用化することを目指しているとした。