国立天文台は1月27日、すばる望遠鏡を用いて29個の合体銀河の高解像度赤外線観測を実施したところ、観測したほぼすべての合体銀河で少なくとも1つの超巨大ブラックホールが大量の物質を飲み込んで活性化し、明るく輝いていることを確認した一方で、合体銀河は複数の超巨大ブラックホールを持つと考えられるにも関わらず、明るく輝く超巨大ブラックホールが複数検出された銀河の割合は、約15%しかないこともわかったと発表した。

成果は、国立天文台 ハワイ観測所の今西昌俊氏らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、1月発行の米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

現在広く受け入れられている、冷たい暗黒物資に基づく銀河形成理論によれば、ガスを豊富に持つ銀河同士が衝突・合体して、大きな銀河に成長してきたと考えられている。また、銀河の中心にはほぼ普遍的に、太陽の100万倍以上の質量を持つ「超巨大ブラックホール」が存在することも、昨今の観測からわかってきた(我々の天の川銀河も400万太陽質量の超巨大ブラックホールが存在する)。

銀河同士が合体すると、大量のガスが銀河の中心付近に急速に集められることで星生成活動が活発になる。同時に、合体前の銀河に元々存在していた超巨大ブラックホールに物質が落ち込み、活動銀河中心核活動として明るく輝くと考えられる(画像1)。これらの活動を観測的に正しく理解することは、銀河形成の解明にとって非常に重要だ。

超巨大ブラックホールに物質が落ち込むと、周囲の円盤状に分布するガスがとてつもなく高温になり、非常に明るく輝く。ブラックホールに落ちる直前の1/100秒前の時点で、10億度を超えるという研究発表もあるほどだ。この高温は、落ち込んだ物質が元々持っていた位置エネルギーが解放されるためである。この活動は、星内部の核融合反応でエネルギーが作られる星生成活動と区別され、「銀河中心核活動」と呼ばれる。ブラックホール自身はもちろん輝かない。

しかしながら、銀河合体中に起こる星生成活動や「活動銀河中心核活動」は、大量の塵とガスに埋もれた場所で生じると考えられているため、可視光線ではきちんと研究することができず、塵吸収の影響を受けにくい赤外線での観測が必要である。

画像1。合体銀河における活動的な超巨大ブラックホール付近の想像図。(c) 国立天文台

塵に隠された活動性を示す合体銀河は、赤外線で明るく輝く。このような銀河は「大光度赤外線銀河」と呼ばれる。研究チームは、この大光度赤外線銀河を高解像度で撮影することにより、塵に埋もれた活動的な超巨大ブラックホールを精密に研究する手法が確立された。物質を盛んに飲み込む超巨大ブラックホールは、周囲にある大量の塵を温める。銀河合体中に生じた星生成活動でも塵が温まるが、エネルギーの変換効率が異なるため、赤外線での光り方の違いから、塵に埋もれた活動的な超巨大ブラックホールを星生成と区別することができるのだ。

研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線分光撮像装置 IRCS と補償光学装置を用いて、合体中の大光度赤外線銀河を29個観測した。観測で得られた波長2.2μm(Kバンド)と3.8μm(Lバンド)の画像を比べた結果、1個を除く28個の銀河において、少なくとも1つの活動的な超巨大ブラックホールの存在を確認することに成功した(画像2)。この観測結果は、ガスを豊富に持つ合体銀河では超巨大ブラックホールに大量の物質が落ち込んで明るく輝き、活動銀河中心核活動として観測されやすいということを示している。

一方で、2つ以上の活動的な超巨大ブラックホールが見つかった天体は4個、全体の約15%しかなかった(画像3)。合体前のそれぞれの銀河が超巨大ブラックホールを持っていれば、合体銀河中には複数の超巨大ブラックホールが存在するはずだ。しかし、それらが活動銀河中心核として観測されるには、物質を激しく飲み込んで活動的になり、明るくなる必要がある。

今回の観測で複数の活動的な超巨大ブラックホールを持つ合体銀河が4個しか見つからなかったということは、合体銀河中ではすべての超巨大ブラックホールに激しく物質が落ち込んでいるわけではなく、その活動性には「個性」があるということを示唆しているという。

各銀河画像の視野は一辺が10秒角だ。北が上で、東が左となっている。画像2(左):すばる望遠鏡で撮影した合体中の大光度赤外線銀河の赤外線画像(Kバンド)の例。合体の兆候がはっきりと見られる。(c) 国立天文台 画像3(右):塵に埋もれた活動的な超巨大ブラックホールの存在が複数認識された4個の合体銀河の赤外線画像。それぞれ観測波長Kバンドとバンドが並べられている。それぞれの天体、それぞれの波長で、2個の銀河核からの放射がはっきりと検出されている。KバンドとLバンドでの光度比から、活動的な超巨大ブラックホールに温められた高温の塵が存在することがわかる。(c) 国立天文台

今回の観測により、超巨大ブラックホールへ物質が落ち込んで明るく輝く現象は、銀河全体の性質ではなく、ごく周辺のガスの運動などによって決まっている、ということが判明した形だ。超巨大ブラックホールへ物質が落ち込んで明るく輝く現象は、銀河全体から見れば非常に小さな場所で生じるため、銀河合体のコンピュータシミュレーション研究でそのような小さな領域の物理状態を精密に予言することは非常に困難だ。従って、観測的な制限が非常に重要である。今後、合体銀河における超巨大ブラックホールの活動性のさらなる解明が、観測・理論研究の両面から期待される。

今西氏による解説。2014年1月24日に撮影された。(c) 国立天文台