2014年になり最初の開催となる「Tech Compass」が、1月22日にマイナビにて開催された。「Tech Compass」とはマイナビが無料で開催しており、ITエンジニアが楽しみながらスキルアップできる場を提供することを目的としたイベントだ。昨年からスタートして今回が7度目の開催となる。

新年最初のテーマは、最近エンジニア達から脚光を浴びているアドテクノロジーについて。登壇者は、神田勝規氏(サイバーエージェント)、久森達郎(@myfinder)氏(フリークアウト)、関陽介氏(Fringe81[フリンジハチイチ])と「日本のアドテク業界を牽引していると言っても過言ではない(菅原氏)」豪華なメンバーだ。モデレータは、菅原健一氏(スケールアウト)に務めていただいた。

当日、会場には多くのエンジニアが訪れた。「アドテク」という言葉を知っている参加者も大変多く、この分野への関心の高さを伺わせた。かくいう筆者も1年ほど前からアドテクノロジーに携わっており、イベント当日を心待ちにしていた一人である。

アドテクノロジーの4つの挑戦

菅原健一氏(スケールアウト)

最初に、アドテクノロジーとはどういうものであるか、モデレータの菅原氏より簡単な説明が行われた。「アドテク」とはadvertising technologyであり、直訳すると広告の技術である。

しかし、ひとえに広告の技術と言っても多岐に渡るものであり、様々な分野が複合されている。菅原氏はそれらについて、「4つの挑戦」という言葉でまとめた。量への挑戦は広告サービスのトラフィックの量を表しており、「月間1,000億インプレッションを捌かねばならない(菅原氏)」。

速度への挑戦は現在主流となったRTB(Real-TimeBidding)への挑戦であり、「100ms以内にレスポンスを返さなければならない(菅原氏)」。質への挑戦も必要だ。データを元に、なるべく効果の高い広告を配信する必要がある。具体的には、ビッグデータの分析を行うことが必須とされる。

また、アドテクノロジーのシステムではシステムの完成度が企業の利益に直結している。「開発がうまくいけば儲かる(菅原氏)」と言うことだ。入札ロジックの質が低ければRTBのオークションにおいて良い成果は出せないし、「今ここで話している間でもシステムは取引を続けている(久森氏)」のだ。菅原氏はこれを、ビジネスへの挑戦という言葉で表現した。

厳しいレイテンシの中、いかに実現するか

神田勝規氏(サイバーエージェント)

久森氏は、以前はソーシャルゲームのプラットフォームをシステム運用していたそう。ソーシャルゲームとDSP(Demand-sideplatform。広告主側の立場に立つ企業のこと)は決められたリクエストに対して定められた時間内で応答することは類似しているが、「ソーシャルゲームは5秒だが、DSPでは100msで返さなければいけないという点が際立った違い」だという。

神田氏は在学中はコンピュータサイエンスを専攻しており、その後学生ベンチャーで研究開発などに携わった経歴を持つ。アドテク業界について、「データ、トラフィックがとにかく多い。思っていたより0が2つ多い(神田氏)」とデータ量について言及。その上で、「サーバのトラフィックについては教科書に出ている待ち行列理論に沿うデータがそのまま現れる(神田氏)」と、大規模だけに机上の理論がそのままデータに現れてくる面白さについて触れた。

一方、関氏は以前はフリーエンジニアとして活躍していた。バンドマンとしても活動していたが、「Fringe81が面白そうだった(関氏)」と入社を決意。現在は同社のプロダクトであるTagKnightのプロジェクトマネージャとして活躍している。「適切なソリューションにより、ネット広告が鬱陶しいという感覚は無くせる(関氏)」と新しい価値の想像という観点からアドテクノロジーの面白さを伝えた。

常にトラフィックに追い立てられている

久森達郎氏(フリークアウト)

広告配信システムがビジネスの中心となるアドテク業界。そのシステムの開発や運用の体制はどうなっているのだろうか。

神田氏によれば、「プロダクトの品質に意識が高いエンジニアが多い。No Test, No Commit(神田氏)」であり、比較的モダンなスタイルで開発しているそう。関氏、久森氏もこの意見に同調した。「テストは大量にあり、実行に30分かかるようになったことから並列化した(久森氏)」といった話には、興味を持った参加者も多かったようだ。久森氏は故障が近づいたサーバを社内に持ち込んで並列テストに使っており、リソースの有効活用にも一役買っている。

トラフィックの増加の激しいアドテクでは、リソースについて考える機会は多い。各サーバについてCPUとメモリ、ディスクのバランスをどうしているかという神田氏の問に対し、関氏は「AWSを使っているので後から調整することが可能」とクラウドによる恩恵を強調した。「調達コストを考えると、ハイスペックの同じサーバを揃えるのがよい(久森氏)」と久森氏。とは言え、ソフトウェアエンジニアとしては「ハードを調達せずになんとかチューニングできると嬉しい(神田氏)」というのがエンジニアの本音であろう。