2014年のはじまりはメディアの変化を思い知らされた
*本記事は「クリエイティブビジネス論」からの寄稿記事です。
2014年、仕事始めの週の5日間でぼくの目の前に流れてきた情報は、メディアの変化を思い知らされるものばかりだった。
まず業界人間ベムが「2014年 広告業界7つの予測」と題した記事を配信していた。広告業界の人ならご存知、デジタルを中心にしたマーケティングの横山隆治氏のブログ。かなり専門的なので広告業界でない人には読みにくいかもしれないが、まあ斜め読みでもざっと目を通すといいと思う。
勝手な解釈をしてしまうと、”ネット動画広告”が7つのうちの2つの項目に登場する。今年はネット動画が大きなキーワードになるんだなあと受け止めた。もうひとつは、ネイティブ広告が注目されるという話。だろうなだろうな、そうだろうなー。
と思っていたら、日経デジタルマーケティングの気になる記事も流れてきた。「セブン&アイが2014年度のネット広告予算を10倍以上へ、オムニチャネル推進へ戦略転換」という記事。セブン&アイはグループ全体で広告宣伝費を1000億使っているのだが、その中で1%にも満たなかったネット広告費を10%、100億円に引き上げるという。
この記事は会員にならないと読めないのであまり中身を書けないが、重要だと思ったのはこの部分。
“テレビを見た人の購入率は、見ない人の1.8倍。テレビCMとネット広告を見た人の購入率は、見ない人の5倍になった。さらにGDNとYouTubeをうまく使うと、購入率はそれらを見ない人の10倍に達したという。鈴木社長は、テレビCMとネット動画広告を組み合わせることで、効果的な販促を実現できることを改めて実感したというわけだ。”
テレビの効果は踏まえつつも、テレビとネット動画を組み合わせた方が効果的だという判断らしい。つまり、ネット動画による広告に大きく予算を配分することになる、ということだ。
一方、こんなニュースも聞こえてきた。
「民放5社が月945円で番組見放題サービス開始 スマホやタブレット向けで」
“もっとTV”というVODサービス、これまでドラマ1話何百円、という売り方だったのに加えて、定額見放題、つまりhuluのような売り方もはじめる、というのだ。定額メニューに入っている番組は限られているが、画期的だと思う。
動画が来るなあ、ネット動画の2014年になるなあ、と受け止めた。
何しろ、去年はスマートフォンの普及が決定的となった。普及率の数字としては3割とか4割とか、世帯だと5割なのだとか、いろんな数字がありつつ、とにかく誰も彼もが使っている。スマートフォンの普及は、人びとのメディア生活を変えてしまう。
これは人前で話す時に何度か使った図なのだけど、スマホによってデジタルメディアがほんとうの意味で生活に根づくのだ、と言いたい図だ。
メディアと人びとのもっとも大きな接点がリビングルームだ。昔でいうお茶の間だ。自宅のそういうスペースでゴロゴロしながら接触することがメディア消費なのだ。お茶の間ではラジオを聴いたりテレビを見たり新聞を眺めたり雑誌をめくったりしていた。旧来のマス4媒体とはようするに、お茶の間でだらだら過ごす時に接触していたのだ。
PCは実は、そういう時間には向かなかった。結局は仕事のために作られた端末だから、リビングルームで使うには小難しすぎたのだ。だからこれまでのネット動画は、若者が自分の部屋でPCで視聴するような状況がほとんどだったろう。
スマホはゴロゴロしながらいじるのにうってつけだ。だから、ネットコンテンツも多くの人びとに接しやすくなる。それまではリビングルームでネットに接しなかった層も、スマホで接触するようになっていく。動画だって、年配層がネットで視聴する機会も増えるだろう。
困ったことに、そこではPCで見る前提で発達してきたことは通用しなくなる。バナー広告はPCの時代より、効かなくなる。むしろ、ネット動画の方が接触するようになるだろう。
だから2014年は、ネット動画がホットワードになる。メディア企業はネット動画でマネタイズの機会を増やそうとするだろうし、企業は広告でネット動画を積極的に使うようになるだろう。
この現象は、これからのメディアや広告に構造的な変化をもたらすことになる。比率だのやり方だのを大きく変えないわけにはいかなくなるはずだ。
そんな変化をはっきり予感させられた、2014年のはじまりだった。
ライター紹介
境 治 (Osamu Sakai)
企メディア・ストラテジスト。1987年、東京大学を卒業し、広告代理店I&S(現ISBBDO)に入社してコピーライターとなる。92年、TCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞を受賞。93年からフリーランスとなりテレビCMからポスターまで幅広く広告制作に携わる。
06年、映像制作会社ロボットに経営企画室長として入社。11年7月からは株式会社ビデオプロモーションでコミュニケーションデザイン室長。この7月から再びフリーランスで活動。
関連記事 「Twitter TV指標」はテレビに何をもたらすか?(プラスをもたらす期待を込めて) テレビの未来を担う、セカンドスクリーンは定着するか~マル研&JoinTV~ ソーシャルTVカンファレンス2013レポート:参加型視聴体験を実現する「zeebox」創業者アンソニー・ローズ氏のセッション |