独立系家電メーカーとして注目を集めるバルミューダ。前回は、試作による実験を繰り返すことで高いクオリティを生み出す、バルミューダ方式とも呼べる「ものづくり」について紹介した。連載3回目は、同社が「ものづくり」において注意する点、スピードについての考え方について紹介する。

コスト削減と品質向上に必要なもの、それはスピードアップ

バルミューダ株式会社
代表取締役社長 寺尾 玄 氏

ある意味で、開発コスト度外視とも呼べるほどに「優れた製品」へのこだわりを持つバルミューダ社。しかし数ある要素の中で唯一、寺尾氏がコストと明言したものがある。それが「時間」だ。

バルミューダ方式は、試作、実験、改良のサイクルを繰り返すことで、独創的な機能を持った製品開発を可能としている。しかし、このサイクルに掛かる時間が長くなってしまうと、発売タイミングを逸してしまう可能性が出てくる。例えば、「SmartHeater」のような暖房器具の場合、寒くなる時期の発売を目指すこととなる。開発に時間が掛かり、暖かくなった春先に発売となっては、売り上げ見込みは立たない。逆に、時期を間に合わせるために実験回数を減らすと、課題が残ったままの製品となってしまい、同社が持つブランドイメージを損なってしまう可能性が出てくる。だからこそ「スピードが命」と寺尾氏は語る。

そのため、バルミューダでは、スピードアップにつながるサービスを積極的に取り入れている。その例に、「GreenFan」の試作開発において利用したサービスに、プロトラブズ社が提供するサービス「Firstcut」がある。CADデータを送ると24時間以内に見積もりが届き、試作の完成までにもわずか1~3日程度というスピード感が、魅力だったとのことである。

「試作と実験の期間が短くなれば、素早く次のステップに進むことができます。コスト削減の施策や更なる品質向上を検討する時間も生まれてきます」(寺尾氏)

いいものを追い求める。それを貫くことで伝わる「ものづくり」への想い

バルミューダが今冬に送る新製品「Rain」

現在、バルミューダでは「冷暖房及び空気の状態」に関わる製品開発を行っている。「SmartHeater」に続き発売された加湿器「Rain」は、既存の製品とは一線を画したデザインで、既に各メディアで取り上げられ話題となっている。気化式による自然な加湿方法、本体内部の給水ボウルに水を直接注ぎ入れる「タンクレス構造」が特徴。こちらも、「SmartHeater」と同様、Wi-Fi通信による操作が可能となっている。

「"人々の暑い寒い、及び空気の状態を解決すること" 今、私達が開発している製品は、そこが一番のコンセプトになっています。今はそこを極めていきたい。おそらく、それほど時間を掛けてはいけないと思っています」(寺尾氏)

世の中に当たり前のようにあり、既に改良の余地がないと思われているような製品。それらの中には、もう一度しっかりと見つめ直せば、もっと良くできるものが必ずある。それを見つけ出し、世の中に提供していくこと、それがバルミューダの理念である。

「これからは、ワールドワイドに製品を提供していきたい」と寺尾氏は語る。海外に向けて販売する際に、その国のニーズや風土に合わせて製品をカスタマイズするケースは良くある。だが、バルミューダでは、そのようなことをする予定は今のところない。それぞれの国に合わせて改良をすると製品点数が増えてしまう。すると、一つの製品に掛けられる手間と労力が減ってしまい、バルミューダが誇る高いクオリティを維持することが難しくなる。寺尾氏はそれを危惧する。「その国々に合わせたものではなく、点数を絞って、もの凄くいいものをつくる。いいものであれば、全世界でも通用するはずです」と寺尾氏は断言する。

「いいものだけを追い求める。それを貫くことが、私達のブランド価値になります。特に今回の新製品は、自分達らしさが良く出た製品だと自負しています」(寺尾氏)

同社の「ものづくり」に掛ける思いから生まれる、新たなる製品に今後も注目していきたい。