大阪大学(阪大)は、金ナノ粒子に高い強度の光を照射すると、光の散乱効果が飽和することを発見し、さらにその現象を光学顕微鏡の解像力を高めることに応用したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学研究科の藤田克昌准教授、河田聡教授、台湾大学のShi-Wei Chu准教授らによるもの。詳細は、米国物理学会「Physical Review Letters」に掲載された。

光を物質に照射すると、その光は散乱され、様々な方向に進んでいく。この光散乱の効果を飽和させるには、極めて強い光が必要であると考えられてきた。光学効果の飽和の多くは、高い強度の光の照射が物質の特性を変化させてしまうことにより生じる。しかし、光の散乱の際には、光は散乱物質にエネルギーをほとんど与えないため、物質特性の変化はほとんどない。このため、光散乱の飽和については研究が行われておらず、またその現象の応用もまったく考えられてこなかった。

研究グループは、金属表面の自由電子の集団振動(プラズモン)が光と強く相互作用することを利用し、金属表面の光散乱を飽和させることを考案した。実際に、高い強度の光を金ナノ粒子に照射すると、光散乱の効率が減少していき、完全に飽和する様子が確認できたという。この飽和現象はプラズモンを高効率に誘起する波長の光の照射で顕著に表れることから、高い強度の光の照射ではプラズモンの誘起の効率が低下し、それに共鳴して生じる光散乱の効果も低下することが、光散乱の飽和のメカニズムだと考えられる。この新たな光学現象の発見により、光と金属の相互作用について、さらなる進展と応用が期待されるとしている。

(a)直径100nmの金ナノ粒子における、照射光と散乱光の強度の関係。プラズモンを効率的に誘起する波長で強い飽和効果が観察された。(b)直径100nmの金ナノ粒子、およびバルク状の金の消光スペクトル

さらに、研究グループは光散乱の飽和時において、照射光と散乱光の強度が非線形な関係になることを利用し、従来の光学顕微鏡の限界を大きく超えた解像力を持つレーザ顕微鏡を開発した。光散乱の飽和は、照射光の強度の高い部位に特に顕著に表れる。このため、レンズでレーザ光を集光した焦点では、その焦点の中心の極めて狭い範囲のみで光の散乱が飽和する。この光散乱の飽和を検知しながら、レーザ焦点を試料表面上で走査すると、試料の構造を高い解像度で観察できる。光学顕微鏡の空間分解能を向上させる超解像技術は、これまで蛍光顕微鏡や近接場顕微鏡において実現されているが、今回の研究により、金属に直接散乱された光を捉えることでも、超解像観察が可能なことが初めて示されたとしている。同技術は、様々な材料やデバイス表面、金ナノ粒子をプローブとして導入した生体試料の高速超解像観察、また、その特性、機能や性能評価に利用されることが期待されるとコメントしている。

近接する2つの金ナノ粒子(直径100nm)の観察像。スケールバーは1µm。従来のレーザ顕微鏡では2つの粒子を区別できないが、開発した手法では区別できる