日本が誇る自動車産業。その中において、金属板の加工を行うプレス成形は、製品の品質を決める重要な要素である。近年、このプレス成形を、正確かつスピーディーに行うために、設計から工程までをシミュレートする業務支援ソフト を導入する企業が増えている。その中で、グローバルスタンダードとして、国内外における主要自動車メーカーの殆どが導入しているものが、スイスに本社を持つ、オートフォームが提供するAutoForm plusだ。 今回、日本法人の代表取締役であるマルコ A. クリベリ氏 (以下 クリベリ氏)にオートフォームが目指すものづくりの形について話を伺った。

より早く、より正確に 様々な人たちの叡智が結集して生み出されたAutoForm plus

オートフォームジャパン株式会社 代表取締役
マルコ A. クリベリ氏

AutoForm plusは、創始者であるヴァルデマー・クブリ氏 (現 CEO)が1989年にチューリッヒ工科大学において提出した、シミュレーション・ソフトウェアについての博士号論文が元になっている。

プレス成形においては、無理に素材を曲げようとすると割れや皺が生じたり、元に戻ろうとする力(スプリングバック)などによって、設計図通りのものができなかったりすることがよくある。そして、複雑な形状になればなるほど、それらの形状によって生じる不具合は増えて行く。だが、それらを確認しようとして素材や形状について何度も試作を繰り返してしまうとコストが掛かってしまう。そのため、精度の高いプレス成形を行うためには、様々な要因についてシミュレーションを行う必要がある。しかし、当時のシミュレーションソフトには結果が出るまでに数週間から数ヶ月掛かっていたため、市場の動向に対処しきれないという弱点があった。

そこでクブリ氏は、シミュレーションの内容をプレス成形に限定し、いくつかの企業と共同しながらソフトウェアの研究を進めた。そして結果が出るまでの時間を数時間から数十時間程度まで短縮をすることに成功した。なお、この時に協力してくれた企業が1994年に、オートフォームにとっての最初の顧客になったとのことである。 このような経緯もあり、オートフォームは大学などとの産学協同プロジェクトにも力を注いでいる。

「プレス成形の技術発展には、素材や構造に対する知識の深まりが不可欠です。我々の業界は学術界の助けがなければ立ち行きません。と同時に、お客様からの意見や要望も、重要なインプットです」(クリベリ氏)

オートフォームの本社には、ユーザー企業から様々な声が寄せられる。それらは、プレス成形の最前線からの重要な情報である。「その中でも、日本から寄せられる情報は、非常に興味深いものがあります」とクリベリ氏は語る。 日本のユーザーは、ものづくりに対するこだわりが深い。そのため、非常に細かい部分についてまで要望が寄せられる。中には、「そこまでする必要が本当にあるのか?」と本社で議論になったものもあったそうだ。 「ですが、それから一年経つと、同様の要望が世界中のお客様から寄せられるようになりました。日本のマーケットに精通することは、私達が進化するためにも非常に重要なポイントなのです」(クリベリ氏)

AutoForm-ProcessPlanner plus
による工程計画
AutoForm-DieDesigner plus
によるダイフェース設計
AutoForm-ProcessExplorer plus
による結果評価

地方都市から広がった日本マーケット

オートフォームの顧客には世界中の主要な自動車メーカーが名を連ねる。それは日本も例外ではない。 しかし、日本において最初にオートフォームを導入したのは、意外にもこれらの大手メーカーではない。それは、群馬県太田市にあるパーツや工具を制作するメーカーだった。太田市には、多くのパーツメーカーや工具メーカーが軒を連ねている。そして現在では、その約40%がオートフォーム製品 のユーザーであるとのことだ。 何が発端となり、どのような経緯があって太田市で広がって行ったのか、その理由はクリベリ氏も「実は、よくわかりません(笑)」とのことだ。だが、敢えて理由を考えるならば、「現場のプレス設計者が考えていることを具現化する」というオートフォームの開発思想が日本のものづくり現場と合致したため、支持が広がって行った。その発端となった企業が、たまたま太田市だった、ということなのかもしれない。 「オートフォームの製品は、シミュレーション技術者にではなく、現場のプレス設計者にとって使いやすいソリューションであることを目指しています。そこを評価してもらっているようです」(クリベリ氏)

進化を続けるオートフォーム。最新バージョンR5

AutoForm plusは、2013年9月に最新バージョンであるR5を発表した。今回、新たに追加・改善した機能は100を超える。具体的には以下のようなものがある。

  • プレス成形の計画作成を支援する機能に、順送金型のサポートを追加。
  • 絞りや次工程目の定義に必要なダイフェースの作成機能を強化。
  • フォーミングの形状を簡単に定義できる形状タイプを追加。
  • 結果評価の効率と信頼性を高めるオプションを追加。

今回のR5でAutoForm plusは大きな進化を遂げた。そのコンセプトは「包括的デジタル工程計画」(Comprehensive Digitl Process Planning)の実現。すなわち、プレス成形における、機能、品質、リードタイム、コスト、などの要素を包括的に考慮したソリューションであることだ。 「よい品質のものを作ることは大切です。しかし、競争が激化している現在の市場では、時間を掛けてしまっては生き残れません」(クリベリ氏) 全体をトータルで見ることで、コストの最適化を行った上で、ロバスト(安定品質のために外乱に対しての頑強であること)設計 を、しかも短期間に実行できるようになった。

機能拡張された計画オプション 金型モデリング機能の強化

プレス成形にこだわり業界の世界標準を目指すオートフォーム

「私たちオートフォームは、これからもプレス成形の世界に特化していきます。他のことをやるつもりはありません」とクリベリ氏は明言する。

スピードと正確さを追求し、様々な国の研究者やクライアントからの意見を取り入れ、進化を続けるオートフォームの製品。その目指す先は「プレス成形における世界標準」である。 「例えば、オフィスソフト業界のマイクロソフトのように。少々、目指す先は遠いかもしれませんが(笑)。でも、徐々にそうなって来ているのではないかな、とは思っています」(クリベリ氏)

プレス成形を伴うものづくりは日本が得意とする分野であり、その質の高さは全世界で評価されている。もし、日本のものづくりにおいて弱点があるとするならば、それはスピードだろう。 オートフォームが提供する正確さとスピードが加われば、日本のものづくりにとって大きな力となるに違いない。