名古屋大学(名大)は1月9日、富山大学、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の協力を得て、「肝臓X受容体(LXR)」の活性化が血管内皮細胞の老化を制御し、糖尿病モデルラットの動脈硬化症進展を抑制、さらに抗糖尿病薬「メトホルミン」の併用にて副作用である脂肪肝発生も回避できる可能性を見出したと発表した。
成果は、名大名大大学院 医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学講座の葛谷雅文 教授、林登志雄 講師、富山大 医学部医学科 分子医科薬理学の服部裕一 教授、カリフォルニア大のLouis J lgnarro教授らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間1月7日付けで米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン速報版に掲載された。
核内受容体は、さまざまな遺伝子発現を制御する「リガンド」により活性化される「転写因子」である。リガンドとは特定の受容体に特異的に結合する物質のことだ。また、転写因子とはDNAを元にRNA転写産物を合成する因子のことで、遺伝子が機能する遺伝子発現を進める役割を担う。
核内受容体は特殊な「ホルモン反応性エレメント」に結合し、「レチノイン酸」、ビタミンD3、ステロイドおよび甲状腺ホルモンなど、これまでにさまざまなリガンドが報告されている。また、核内受容体の1種である「レチノイド受容体」を標的とする薬剤は悪性腫瘍、内分泌代謝疾患、皮膚疾患などですでに臨床応用されているところだ。
研究チームはこれまで、高グルコース(3日間培養)の内皮細胞老化作用と動脈硬化進展との関連を報告し、糖代謝との関連を検討してきており、今回は各種核内受容体の細胞老化への影響が検討された。
研究チームは、核内受容体としてLXRおよびビタミンD受容体、PPAR関連物質などが取り上げられ、「ライソゾーム」内で活性化される老化後の指標である血管内皮細胞「SA-βガラクトシダーゼ」(老化関連βガラクトシダーゼ)と、生理的老化で認められるテロメア長の調節に関与する「テロメラーゼ」活性などを細胞老化のマーカーとしての検討を実施。
さらに具体的に説明すると、内皮細胞はヒト静脈由来内皮細胞「HUVECs」(経代数10以下)が用いられ、22mMグルコース(通常の4倍)の濃度で3日間培養し血管内皮老化への影響が検討され、同時に血管内皮機能として一酸化窒素(NO)産生量なども検討された。なお、LXRは脂質および糖質代謝に関連することが知られており、肝臓に存在する「LXRα」と血管内皮やマクロファージに存在する「LXRβ」が存在する。
結果は、LXR活性化物質のみが高グルコース誘導細胞老化に抑制効果を示すことが判明。LXRは脂質代謝に関連するので、善玉コレステロールの1種である「HDL-C」のような血管から肝臓へのコレステロール逆転送に関連する「ABCA1」、「ABCG1」、および「SREBP-1(ステロール調節エレメント結合タンパク質1)c」との関連を検討したところ、SREBP-1cとの関連が示されたとした。高グルコースによるNO合成酵素の減少に対し、LXR活性化物質はこれを回復させたというわけだ(画像1~3)。なお、SREBP-1は、脂質代謝制御を中心的に担う転写因子の1つで細胞内のコレステロール量の調節に関わる。
LXRは糖と脂質代謝双方に関与するとされ、抗動脈硬化作用および抗糖尿病効果が報告されていたが、今回、抗細胞老化作用が見出され、前述の両作用に関与している可能性が示唆されたというわけだ。
また今回の成果でLXRが脂質代謝系遺伝子SREBP-1を誘導することがわかったことから、細胞老化抑制という新たな機序で糖尿病性動脈硬化症を制御する可能性や、メトホルミンなどとの薬物併用による臨床応用の可能性が示されたとしている。