横浜市立大学(横浜市大)は1月8日、藤田保健衛生大学、生理学研究所(NIPS)との共同研究により、脳の形成に重要な役割を果たすタンパク質「クリンプ1」が、統合失調症の発症に関与することを発見したと発表した。
成果は、横浜市大 学術院医学群の山下直也助教、同・薬理学教室の五嶋良郎教授、藤田保健衛生大の宮川剛教授、NIPSの高雄啓三准教授らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2013年12月27日付けで「Frontiers in Behavioral Neuroscience」オンライン版に掲載された。
統合失調症は、人口の1%ほどの人が発症する精神神経疾患であり、日本でも80万人以上が治療を受けていることが知られている。しかしながら、統合失調症になる原因は多岐にわたると考えられており、どのように病になるのかは現在もほとんどわかっていない。
今回発見されたのは、脳の形成に重要な役割を果たすタンパク質であるクリンプ1が、統合失調症の発症に関与するということだ。クリンプ1は、正常な脳の発達に重要な役割を果たすタンパク質で、同タンパク質を発現できない遺伝子改変マウスでは、脳の発達が障害されることがわかっている。近年、統合失調症の発症には、脳の発達障害が関係することがわかってきた。そこで研究チームは、この遺伝子改変マウスが、統合失調症に類似した症状を示すかどうかを調べるため、いくつかの行動試験を実施した次第だ。
その結果わかったことの1つが、遺伝子改変マウスが「驚愕反応抑制の低下」という症状を示すことである(画像1)。驚愕応答抑制とは、突然に強い音刺激を動物に与えることで生じる驚きの度合い(驚愕反応)が、その強い刺激の直前に比較的弱い刺激を与えることで抑制される現象のことだ。しかし、その抑制が低下してしまうのである。なお、一部の統合失調症患者では、研究チームが調べた遺伝子改変マウスと同様に、「驚愕応答抑制の低下」が認められるという。
また、統合失調症の治療薬として用いられている「クロルプロマジン」の投与が行われたところ、遺伝子改変マウスの症状が改善することが判明。そのことから、クリンプ1を発現できない遺伝子改変マウスが、統合失調症患者に類似した症状を示すことがわかったというわけだ。
なおごく最近になって米国とドイツの共同研究チームにより、一部の統合失調症患者ではクリンプ1の発現が異常になり、同タンパク質がうまく働かなくなっている可能性が指摘されていた。ただし、実際に統合失調症の発症に関与するかどうかについてはわかっておらず、今回の研究成果で初めて、クリンプ1がうまく働かないと統合失調症に類似した症状を示すことが明らかにされた形だ。今後は、この遺伝子改変マウスを用いて、統合失調症に有効な治療薬の開発を目指していきたいとしている。