京都大学(京大)は、デジャビュ(既視感)は、過去の出来事や場面と類似した出来事・場面に直面した場合に起こるのではないかという先行研究の示唆から、類似性に敏感な人とデジャビュの関係について検討した結果、これらの2つは大きく相関することが明らかになったと発表した。
成果は、京大教育学研究科の楠見孝教授、同・杉森絵里子氏(現・早稲田大学高等研究所助教)らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、英国時間2013年12月3日付けでヨーロッパ認知心理学会誌「Journal of Cognitive Psychology」電子版に掲載された。
実際は一度も体験したことがないとわかってはいるものの、どこかで体験したことのように感じてしまうことを「デジャビュ」といい、実際に多くの人がこれまでに体験したことがあるとされている。ちまたでは予知能力の1種や前世の記憶、時間がループしているなどなど、オカルト的・SF的な取りざたもされているが、脳科学の1分野としても研究されているのである。
デジャビュの仕組みとして、これまでの研究で有力視されている説の1つが、「類似性仮説」だ。実際に今体験している出来事や場面が、以前体験した出来事や場面と形態的に類似していて、なおかつその以前に体験した出来事や場面についての詳しい情報を思い出せないという条件の時に、デジャビュを体験しやすいのではないかというものである。今回の研究ではこの類似性仮説を検証するため、「個人差」に着目し、「形態的類似性」に敏感な人とデジャビュ体験の頻度の関係を確かめるため、44名の大学生の協力を得て、質問紙と実験による検討が行われた。
質問内容は以下の通りだ。
日常生活におけるデジャビュ体験の頻度
- 「この1年でどの程度デジャビュを体験したか」 (1:1度も体験しなかった、2:1度か2度、3:3度か4度、4:1カ月に1度、5:1週間に1度、6:少なくとも1週間に2度、7:毎日)
日常生活における形態的類似性の敏感度
- 「音楽・写真・映画・物語に触れた時、過去に体験した似た出来事を思い出す経験をするか否か」 (1:まったく自分にはあてはまらない、2:あまり自分にはあてはまらない、3:どちらともいえない、4:比較的自分にあてはまる、5:たしかに自分にあてはまる)
実験室における形態的類似性の敏感度
- 下の画像に示すように、形態的に類似した2つの画像を30セット、1セットずつ呈示し、どの程度類似していると感じるかについて (1:まったく似ていない、2:あまり似ていない、3:どちらともいえない、4:どちらかというと似ている、5:とても似ている)
そして実験は以下の通りである。
学習段階
まずは60の画像が1つずつ呈示され、その内の30の画像は、後の記憶課題に、残りの30の画像は親しみ評定課題に用いられた。
記憶課題
30の画像の内、10の画像は学習段階で用いた画像とまったく同じ画像が、次の10の画像は学習段階で用いた画像と似た形態の画像が、残りの10の画像は学習段階で用いた画像とまったく異なる画像が1つずつ呈示され、学習段階で呈示されたものか否かについて訪ねられた。
親しみ評定課題
30の画像の内、10の画像は学習段階で用いた画像とまったく同じ画像が、次の10の画像は学習段階で用いた画像と似た形態の画像が、残りの10の画像は学習段階で用いた画像とまったく異なる画像が1つずつ呈示され、学習段階で出てきたか否かは関係なく、それぞれの画像にどの程度親しみを覚えるかについて5件法で訪ねられた。
結果として、以下のことが判明した。まず「日常生活における形態的類似性の敏感度」と「実験室における形態的類似性の敏感度」の間に高い相関が見られた。また、「日常生活におけるデジャビュ体験の頻度」と相関があったのは、「日常生活における形態的類似性の敏感度」、「実験室における形態的類似性の敏感度」、「親しみ評定課題における形態類似画像に対する評定値」の3つだった。
このことから、(1)日常生活において類似性に敏感な人は、実験室において画像を呈示された際にも類似性に敏感であること、(2)デジャビュ経験の頻度が高い人は類似性に敏感であること、(3)デジャビュ経験の頻度が高い人は類似した画像を見たときに親しみを感じやすいことが明らかになったという。予知能力や前世の記憶といった説にはロマンを感じるのも事実だが、今回の結果からは、脳の記憶力と認識力の問題だけで説明できそうなことが強まったといえるだろう。