東京工業大学(東工大)は1月6日、県立広島大学との共同研究により、味に対する好き嫌いに応じて顔の皮膚血流が特異的に応答することを明らかにしたと発表した。

成果は、東工大 社会理工学研究科の林直亨 教授、県立広島大学の鍛島秀明 助教らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、1月5日付けで「Chemical Senses」に掲載された。

おいしいものを食べると幸福感がもたらされ、それに見合った表情に変化するし、まずいものや苦手なものを食べると同様にそれに見合った表情に変化する。表情の変化は味のよし悪しや情動を反映するといわれているが、表情は簡単に偽り、隠すことが可能なので、その変化から感じている味覚を評価することは困難だ。

そこで研究チームは恥ずかしいと顔を赤らめたり、体調が悪いと顔面が蒼白になったり、顔色にまつわる言語表現が数多く存在していることをヒントに、味覚の客観的評価法として、顔の皮膚血流に着目。2011年に、甘味、酸味、塩味、うま味、苦味の基本味に対して顔の皮膚血流が特異的に変化することを突き止めていたが、複雑な味覚を用いても、顔の皮膚血流とおいしさの関連があることを実証することが、実用化に必要であることから、今回の研究が行われた次第だ。

実験は、被験者15名を対象に安静時と、味覚刺激中(オレンジジュース、コンソメスープ、苦いお茶、コーヒー、チリソース、水)に顔の皮膚血流を「レーザースペックル法」によって計測し、刺激中の血流の相対変化量の算出が行われた。なおレーザースペックル法とは、光の干渉の変化する速さが、測定対象表面にある物体の移動速度と関連することを用いた非接触の血流測定法である。また、与えられた味覚の好き嫌いを表す主観的嗜好度については、11段階の主観的嗜好尺度法を用いて測定された。

その結果、おいしいと感じられた刺激(オレンジジュースとコンソメスープ)を与えた際にはまぶたの血流が増加することが判明(画像1・2)。つまり、主観的なおいしさとまぶたの血流の相対的増加量との間には相関関係が確認されたというわけだ。一方、おいしくないと感じられた刺激(苦いお茶)では、鼻や額の血流が低下することが判明。これら結果は、顔の皮膚血流が味覚に対する好き嫌いに伴って特異的に変化したことを示しているとした。

コンソメスープをおいしいと評価した被験者の顔面の皮膚血流変化を撮影したもの。画像1(左)がスープ投与前で、画像2がスープ投与後。赤は血流が高く、青は血流が低いことを示す。スープ投与後にはまぶたの血流が増加していることがわかる

今後の展開としては、食品開発場面において、プロでも長期間のトレーニングが必要な味の官能評価に適用できると考えられるという。応用的には、臨床や介護場面において、意思疎通の困難な者(例えば重症筋萎縮硬化症や筋ジストロフィーの患者)の味覚を客観的に判定でき、個人の嗜好に合った食事を提供することができると考えられるとしている。