理化学研究所(理研)は12月25日、情報通信研究機構(NICT)と共同で、インターネット上にて公開してきたテラヘルツ分光データベースを刷新し、12月26日より新しいテラヘルツ分光データベースを公開すると発表した。

同成果は、同所 光量子工学研究領域 テラヘルツ光源研究チームの野竹孝志特別研究員、南出泰亜チームリーダーらによるもの。詳細は、米国の科学雑誌「IEEE Transactions on Terahertz Science and Technology」のオンライン版に掲載された。

テラヘルツ光の周波数帯には、様々な物質の特徴的な吸収ピークを含む指紋スペクトルと呼ばれる識別標識が数多く存在しており、この特性を利用した新たな分析技術やセンシングイメージング技術が開発されている。理研とNICTは共同で、テラヘルツ分光スペクトルデータベースの開発を進め、2008年度からインターネット上で公開してきた。同データベースの掲載データ数は現時点で1500種類を超え、過去3年間で世界78カ国から約12万回アクセスされている。

テラヘルツ波。周波数が0.1~100THzにある電磁波。光と電波の中間の周波数であり、双方の特性を併せ持つ

テラヘルツ光に関する研究や産業応用の進展に伴い、様々なテラヘルツ分光装置が開発され、販売されている。しかし、テラヘルツ周波数や分光スペクトル形状の標準化はまだ不完全で、各装置を使用して取得した分光スペクトルの正当性などは保証されていない。そのため、指紋スペクトルを利用して厳密に物質の同定を行う際には、標準化された分光スペクトルデータや、他の装置で取得された分光スペクトルデータとの比較が必要となる。

一般に、データベース内の分光スペクトルを閲覧する際には、表示スケール(対数あるいは線形)や表示物理量(波数、波長、周波数)で分光スペクトル形状を閲覧したり、興味のある周波数領域だけを拡大して閲覧したりすることが、分光スペクトルデータに対する理解を深めるうえで有益である。こうした機能をデータベースに付加するには、従来はFlashやJava Runtime Environment(JRE)など、特定企業の特許化された規格やプラグインを使用しなければならず、汎用性に問題があった。

今回、研究グループでは、外部からのデータ登録システムをデータベースに追加し、世界中のユーザーが誰でも自身のデータを同データベースへ登録できるようにした。インターネットへ接続する環境さえあれば、研究者が実験室などで取得したデータを、そのまま同データベースへ登録し、データの整理や管理をすることができる。また、そのデータを世界に公開するかどうかも自身で設定可能であり、著作権はデータ取得者に保持される。さらに、他人の登録したデータは編集できないなど、システムの安全性も確保されている。この結果、今まで世界中の研究者が独自に所有し、世界に分散していた様々な異なる装置、条件下で取得された貴重なデータを、同データベースに集約することが可能となった。

一方、現在のWeb環境を取り巻く世界的潮流として、HTML5のようなフリーでオープンなプラットフォーム(情報基盤)を積極的に利用し、Web実行環境を構築する方向が主流になってきている。HTML5は、現在もまだ仕様の標準化が策定されている最先端のマークアップ言語である。HTML5を利用してWebデータベースを構築すれば、FlashやJREなどの特殊プラグインを利用せずに、Internet ExplorerやGoogle Chromeなどの汎用フリーブラウザを使用するだけで、リアルタイムで分光スペクトル表示のスケールや物理量、表示領域などを自由に操作できるデータベースを構築できる。また、HTML5は今後、インターネット上のWebコンテンツを構築する主流になるのは間違いないと考えられており、HTML5で構築したデータベースであれば、変化の激しいインターネット環境上においても、長期にわたって安定した運用が可能になる。研究グループは、データベースを改訂するにあたり、学術的な分光スペクトルデータベースとしては世界に先駆けてHTML5技術を採用し、システムを開発した。開発したデータベースは、12月26日からインターネット上に公開される。

HTML5による分光スペクトル表示とデータベースのトップページ(右上)。2013年12月26日から公開

同データベースは、インタフェースが全て英語表記で、データ登録システムも備えている。このため、世界中のテラヘルツ光研究者や利用者がデータを登録し、分光スペクトルデータにアクセス・活用し合い、同データベースとテラヘルツ光研究、あるいは産業応用が相乗的に発展して行くものと考えられる。また、最先端のHTML5を用いてシステムを構築しているため、汎用のWebブラウザを使用すれば閲覧環境に依存せずに、誰でも自由に双方向でデータベースが利用できるという。今後、テラヘルツ分野における世界標準のデータベースとして、テラヘルツ研究の発展や産業応用、新規産業の創生に寄与できると期待しているとコメントしている。

データ登録ページ。世界中のテラヘルツ光研究者や利用者がデータを登録し、分光スペクトルデータにアクセス活用し合うことができる。データを公開するかどうかを自身で設定可能であり、著作権はデータ取得者に保持される。また、他人の登録したデータを編集できないなど、システムの安全性も確保されている