東京医科歯科大学(TMDU)は12月25日、神経幹細胞が自身を枯渇させないように自己複製する仕組みを解明したと発表した。
同成果は、同大難治疾患研究所 幹細胞制御分野の田賀哲也 教授と同 鹿川哲史 准教授、備前典久 大学院生らによるもの。詳細は米国科学誌「STEM CELLS」オンライン速報版に掲載され、2014年の同誌にも掲載される予定だという。
神経幹細胞は、ほ乳類の脳においてその一生に渡って存在しており、分裂しながら主要な細胞(ニューロンやアストロサイトなど)を生み出す能力を持つが、すべて分化してしまうと神経幹細胞が枯渇してしまうことになるため、枯渇を防ぐ「自己複製」の能力も有している。そのため、この複製機構を理解することで、治療が困難な脳や脊髄の損傷、神経疾患の克服が期待されているが、その機構の詳細は不明であった。
今回の研究では、神経幹細胞の増殖の鍵となる分子であるサイクリンD1が、アストロサイトの分化を促す機構の鍵となる分子STAT3の働きを妨げることで、アストロサイトへの分化を抑制することが発見された。
このことは、サイクリンD1には従来知られていた細胞増殖を促進するという役割のほかに、神経幹細胞の分化を抑制するという別の機能があることを示すもので、研究グループがこれまでの研究からすでに明らかにしていた、神経幹細胞が自己複製するときにニューロン分化が抑制される仕組みと合わせることで、神経幹細胞が増殖するときになぜ分化しないままでいられるのかという疑問を解決する新たな知見になるという。
そのため、今回の発見について研究グループは、神経幹細胞だけにとどまらず、多くの臓器の幹細胞がどのように自己複製するかを理解するための手掛かりになると考えられるとしており、今後、この知見を活用することで、幹細胞の意図的な増幅や目的とする種類の細胞への分化を人為的かつ効率的に促すことが可能になることが期待できるようになるとコメントしている。