北海道大学(北大)は、自己免疫性皮膚疾患である乾癬の原因分子IL-23/IL-22により誘導される皮膚病は細胞内タンパク「Tyk2」が欠損したマウスでは起らないことを確認したほか、Tyk2活性を抑制する低分子阻害剤を用いると、乾癬の進展を抑制できることも確認したと発表した。
同成果は、同大大学院薬学研究院の松田正 教授らによるもの。詳細はは免疫分野の専門雑誌「International Immunology」の「Advance Access」に掲載された。
乾癬は、症状が悪くなる状態と良くなる状態を繰り返し、完全に治るには長い時間がかかることが知られている。日本では男性に多く、女性の2倍程の頻度で発症しており、その患者の数は人口の約0.05~0.1%(約10万人)と推定されている。また、欧米では日本よりも多く、総人口の約2~3%が乾癬患者であると推定されている。
乾癬は自分自身のリンパ球が皮膚の一番外側の細胞である角化細胞を攻撃する免疫反応により、皮膚が発赤し厚くなり、角層がフケのようにバラバラと落ちる鱗屑が生じ、そうした皮膚では、リンパ球や好中球などの白血球が多数集まってきており、それらが表皮に作用し、健康な皮膚に比べて、表皮を異常に厚くし、角層も厚くする。
近年の免疫学的研究では、リンパ球の中の攻撃型のTリンパ球がその攻撃の主体で、中でもTh1細胞やTh17細胞と呼ばれるT細胞集団が優位とされており、活性化されたTリンパ球が分泌する液性タンパク質であるサイトカイン、腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン12(IL-12)、インターフェロンガンマなどの刺激により、白血球が浸潤し、角化細胞の分裂が亢進し、表皮が肥厚し角層も厚くなり、毛細血管が拡張して皮膚が紅くなると考えられている。
中でも近年は、Th17細胞と乾癬発症、増悪化との関連が注目されるようになり、新たなTh17細胞関連のサイトカインとしてIL-17、IL-23、IL-22といったサイトカイン群も乾癬治療の標的となってきており、 実際に乾癬治療の生物製剤として抗TNF抗体だけでなく、ヒト型抗IL-12/23抗体ウステキヌマブも尋常性乾癬治療薬として臨床応用されるようになってきた。
研究グループは、Th1・Th17細胞の分化に関与するIL.12やIL-23などのサイトカインの細胞内シグナル伝達において重要な分子の1つである「Tyrosine kinase 2(Tyk2)」の働きに関する研究を行ってきており、今回、Tyk2が自己免疫性の皮膚疾患、乾癬の発症、増加悪化にどのように働くかを、Tyk2欠損マウスを用いて検討を行ったという。
その結果、通常であれば、マウスの耳にIL-23を投与することで乾癬症状である皮膚の炎症、肥大や白血球の浸潤が誘導されるはずだが、Tyk2欠損マウスではそうした症状が有意に緩和されることを確認。また、Tyk2欠損マウスにおいては乾癬の発症に関連するといわれている種々の炎症を誘導するサイトカインや抗菌ペプチドの産生が有意に低下していることも確認したほか、IL-23同様にTh17細胞関連サイトカインとして知られるIL-22をマウスの耳に投与することによって誘導される皮膚の炎症、肥大がTyk2欠損マウスにおいては有意に緩和されることも確認したとする。
これは生体内におけるIL-22の作用にTyk2の存在が必要であることを示すもので、合わせてIL-23投与によって誘導される皮膚の炎症、肥大が抗IL-22抗体投与で有意に緩和されることも判明したという。
今回の結果は、Tyk2がる乾癬の発症、増加悪化にも影響するタンパクであることを示すものであり、かつ、その低分子阻害剤が生体内で病気の予防効果を示すものであることから、研究グループでは、今後、自己免疫性の皮膚病である乾癬患者のための新薬開発を行う際に、Tyk2タンパクが重要な標的分子となることが期待できるとコメントしている。