名古屋大学のトランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は12月24日、植物の光合成および生産量を増加させる技術を開発したと発表した。

成果は同大の木下俊則 教授とワンイン研究員らによるもので、米科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載される予定。それに先立ち2013年12月23日(米国時間)に同雑誌のオンライン速報版で公開された。

気孔は植物における二酸化炭素(CO2)の取り込み口。気孔の仕組みは、光による気孔開口には青色光受容体フォトトロピン、気孔開口の駆動力を形成する細胞膜プロトンポンプや内向き整流性カリウムチャネルの関与がこれまでの研究によって明らかになっている。また、植物が太陽光の下で光合成を行うときにCO2を必要とするが、気孔の孔(あな)を通る際に生じる抵抗(気孔抵抗)がCO2の取り込みを制限する原因となり、これによって植物の光合成の効率を下げることも明らかとなっている。植物の光合成活性を向上させるためには、気孔の開き具合を大きくし、気孔抵抗を低下させることが1つの解決法として考えられているが、これまで人為的に気孔の開口を大きくする技術は開発されていなかったという。

気孔は光照射によって開口し、乾燥ストレスに曝されると植物ホルモン・アブシジン酸の作用により閉鎖する(左)。太陽光に含まれる青色光は、フォトトロピンに受容され、細胞膜プロトンポンプを活性化し、カリウム取り込みの駆動力を形成する。細胞内に取り込まれたカリウムは、浸透圧を上昇させ、水が取り込まれ、孔辺細胞の体積を増加させることで気孔を開口する(右)

同研究は、光による気孔開口反応に関わる主要因子(青色光受容体フォトトロピン、細胞膜プロトンポンプや内向き整流性カリウムチャネル)を、気孔を構成する孔辺細胞のみで発現を誘導するGC1プロモーターを使い、孔辺細胞だけに発現量を上昇させ気孔開口を促進できるかどうかを調査したもの。その結果、気孔開口の駆動力を形成する細胞膜プロトンポンプの孔辺細胞での発現量を増加させることで、光による気孔開口が通常よりも25%大きくなることがわかったという。

プロトンポンプ過剰発現株は、光照射後、野生株より大きな気孔開度を示す

また、プロトンポンプ過剰発現株のCO2吸収量(光合成活性)は約15%増加し、これにより植物の生産量が1.4~1.6倍増加することが明らかになったという。さらに、過剰発現株では、野生株と同様の乾燥応答や乾燥耐性が見られたという。このことは、過剰発現株が野生株と同様の水分環境で生育可能であることを示すが、一方でその因子は植物の生産量増加に直接結び付かないことが判明したという。

プロトンポンプ過剰発現株は、野生株より15%高いCO2吸収量(光合成活性)を示す

同研究により、気孔を構成する孔辺細胞における細胞膜プロトンポンプの発現量を増加させることで、気孔の開口を大きくし、植物のCO2吸収量と生産量を増加させることが可能となった。また、乾燥に対する応答性は野生株と変わらないことから、今後この技術を利用することで、農作物やバイオ燃料用植物の生産量増加が期待できるという。さらに、植物を利用したCO2削減への応用も考えられ、同時にCO2増加の問題の解決に貢献することも期待できるという。

プロトンポンプ過剰発現株は、野生株と比べて、一回り大きく育ち(A~C)、播種後25日目において地上部の生産量と乾燥重量が42-63%増加。播種後45日目においては、花茎が長くなり、多くの花を付け、種子の収量が増加