北海道大学(北大)と筑波大学は12月20日、10-14秒以下の(10fs以下)の短い時間内しか発生しない、電子のさざ波の動きを観測したと発表した。

同成果は、北大 電子科学研究所の三澤弘明教授、筑波大学 数理物質系の久保敦講師らによるもの。詳細は、Nature Publishing Groupの「Light:Science & Applications」に掲載された。

近年、地球規模で環境・エネルギー問題が顕在化しつつあり、光触媒や色素増感太陽電池などといった光をエネルギー源・駆動源とする光化学の研究は一段と重要性が増している。真の低炭素社会を実現するためには、光エネルギーを余すところなく利用できる光反応場の構築が強く求められている。研究グループでは、この光子の有効利用の概念を世界にさきがけて提唱し、金属ナノ構造が示す光アンテナ効果により光エネルギーを高効率に利用する光-分子強結合反応場の創成を目指して、研究開発を推進してきた。また、金属ナノ構造が示すプラズモン共鳴に基づく光アンテナ効果を太陽電池や人工光合成など種々の光エネルギー変換系に適用する、高効率な光エネルギー変換デバイスの開発も進めている。

今回、透明な半導体として知られる酸化チタン単結晶基板上に、光アンテナ構造として髪の毛の太さの1/1000程度の金ナノ構造を高密度に配置した基板を作製し、フェムト秒レーザ(パルス幅:7fs)を励起光源とした光電子顕微鏡(空間分解能:7nm)により、金ナノ構造に誘起される局在表面プラズモン共鳴の光電場強度分布や位相緩和過程をポンプアンドプローブ法により追跡した。

この結果、光アンテナ機能を有する金属ナノ構造体が光電場と強くカップリングすることにより光を微小空間に束縛し、閉じ込める物理現象を高い空間分解能で計測することに成功した。そして、図1のように、ナノギャップを有する金構造体を光電子顕微鏡で確認した。図の輝点は、金属ナノ構造がアンテナとなって光エネルギーを捕獲し、それを超微細な領域であるナノギャップに凝集できていることを示している。これには、光子の有効利用を促進する効果がある。また、光の速度が高速のために、このようなナノ構造体に光は10-15秒以下の時間帯しか相互作用できないが、プラズモンの波は光が通り過ぎた後もしばらく継続し、10-14秒以下ほどで減衰する様子が観測された。さらに、計測された光電子顕微鏡像を2つ目のレーザ光パルスの遅延時間を変化させて測定し、コマ写真の要領で並べると、プラズモンの波と光の波の位相の重なり程度により明滅を繰り返し、減衰する過程が観測された。

図1 ナノギャップを有する金構造体の光電子顕微鏡像(水銀ランプ+フェムト秒レーザ励起)。挿入図は、典型的なナノギャップ金構造体の電子顕微鏡写真

図2 光電子顕微鏡像および光電子強度のレーザ光パルス(プローブ光)の遅延時間依存性

近年、金ナノ微粒子は半導体基板と組み合わせることにより、可視光や赤外光を高効率にエネルギーに変換する太陽電池や人工光合成系の光アンテナとして注目されている。今回の成果は、金ナノ構造が示すプラズモン増強による光電場強度分布やそのダイナミクスを明らかにしたものであり、この測定法は金属から半導体への電子移動反応サイトの解明や素過程の追跡において有用な方法になると考えられる。今後、プラズモン光アンテナを用いた光エネルギー変換デバイスの高効率化に向け、この方法論が活用されていくものと期待されるとコメントしている。