産業技術総合研究所(産総研)は12月20日、有機太陽電池の光電変換効率の理論限界値が21%と求められたと発表した。

同成果は、同所 ナノシステム研究部門 ナノ理論グループの関和彦研究グループ長、計測フロンティア研究部門 ナノ顕微分光グループの古部昭広主任研究員、太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・低コスト化チームの吉田郵司研究チーム長らによるもの。詳細は、米国応用物理学会誌「Applied Physics Letters」に掲載される予定。

電荷分離の際に0.4eVのエネルギー損失がある場合の光電変換効率の理論限界と太陽電池が吸収できる光エネルギーの最小値(光吸収端エネルギー)との関係。赤線は無機太陽電池の理論限界、青線は有機太陽電池の新しい理論限界を示す

有機太陽電池は、軽量で薄く柔らかい特性を持っているため、新世代の太陽電池として期待されている。光電変換効率や耐久性の向上などが技術的な課題とされていたが、近年は光電変換効率が急速に向上しており、アモルファスシリコン太陽電池並みの10%を超える変換効率が報告されている。このため、有機太陽電池の変換効率をどこまで向上できるのかという点に関心が集まっている。そこで、シリコン系太陽電池の理論のような限界効率を求めることが望まれていた。

太陽電池の光電変換効率は、半導体のバンドギャップ、熱による散逸、電荷再結合などの因子により制約されている。バンドギャップより低いエネルギーの光は吸収されず発電に寄与しない。バンドギャップより高いエネルギーの光は熱となって散逸し電圧の低下を引き起こす。また、光により生成した電荷が電極に到達するまでに再結合して失われると、電流を低下させる。これらの因子はいずれも太陽電池の電力を低下させるが、無機太陽電池の光電変換効率については、これらの因子を考慮した理論的な限界がShockleyとQueisserにより1961年に示されていた。

これに対し、有機太陽電池に無機半導体の理論を適用するのは妥当ではないと考えられていた。有機物質では、正負電荷間のクーロン相互作用が強いため、光を吸収して正負電荷が強く束縛された励起子が生成される。有機物質の励起子の結合エネルギーは、クーロン相互作用に基づいて見積もると最低でも熱エネルギーの10倍以上である。1種類の有機物質では励起子の電荷分離が十分でないため、有機太陽電池は、正イオンになりやすい有機物質と負イオンになりやすい有機物質の2種類で構成され、これらの物質の界面で励起子となっている電荷が分かれて電気が生まれる。

そこで、今回の研究では、電荷分離に必要な余剰エネルギーに着目した。ShockleyとQueisserの理論の方法で、電荷分離に必要な余剰エネルギーを考慮すると、電荷再結合の速度が増加し、その結果、電圧と電流が変化することが分かった。束縛状態にある負電荷と正電荷間の距離を1nm、誘電率を有機分子で一般的な値3.5としてクーロン相互作用を用いると、電荷分離に必要な余剰エネルギーは0.3~0.4eVと計算された。他の相互作用もあるため、この値は下限であると考えられるが、これまで報告されている余剰エネルギーの最低値とほぼ同じである。さらに、電荷分離に必要な余剰エネルギーとして0.4eVを用いて光電変換効率の理論限界を計算すると、太陽電池が吸収できる光エネルギーの最小値が1.5eV(光の波長では827nm)の場合に最大値は約21%だと分かった。これは、有機太陽電池が最も高い効率を示す光の波長も理論計算により決定されており、光を吸収する有機分子(主にドナー)選択の指針を与えているとしている。

有機太陽電池の電荷分離の機構を模式的に示した図。多くの場合、光は正イオンになりやすい有機分子(ドナー)で吸収される。吸収された光のエネルギーでドナーの電子は励起子となるが、負イオンになりやすい有機分子(アクセプタ)へ移動すると、アクセプタが負イオン、ドナーが正イオンとなり電荷分離する。この過程で、電子は電荷分離に必要な余剰エネルギー(ΔEDA)を失う

多接合型有機太陽電池について電荷分離に必要な余剰エネルギーが0.4eVである場合の光電変換効率の理論限界と太陽電池が吸収できる光エネルギーの最小値(光吸収端エネルギー)との関係。光吸収端エネルギーの差が0.4eVの2つの太陽電池セルが直列に接合されているとしている。赤線は単接合の無機太陽電池の従来の理論限界、青線は単接合の有機太陽電池の理論限界、黒線は多接合の有機太陽電池の理論限界効率を表す

電荷分離に必要な余剰エネルギーが0.4eVであるとして、理論的に計算された単接合有機太陽電池の光電変換効率の限界値21%は、現状の効率である10~12%より十分高く、材料の選択や改良、構造の最適化によって光電変換効率のさらなる向上が期待できることを示している。今後は理論限界との差の要因を解明し、高効率化のための課題の抽出とその解決に向けて研究開発を展開していく予定とコメントしている。