米Spansionは12月19日に電話会議の形で記者説明会を行い、同社のNOR Flashに関するライセンス戦略に関してのアップデートを行った。
今回の説明は、同社の「eCT(embedded Charge Trap)」に関するものである。eCTは同社にとって非常に重要な技術となっている。もともと同社のNOR Flash部門は、MCU向けのNOR Flashのライセンスが少なからぬ売り上げになっており、売り上げ全体としては(特に富士通のMicrocontroller/Analogを買収したこともあって)そう大きな比率ではないが、利益率は悪くない。そのNOR Flash部門の次の稼ぎ頭として同社が期待しているのがeCTで、2013年5月にはUMCと共同開発のアナウンスを行っている。
これがどの程度画期的か、という話はAli Pourkeramati氏が同社のblogで記事にしているが、ちょっと別の視点から説明してみたい。
現在主要なMCUは大体が130nm~65nm世代のプロセスで製造されている。これはFlashの動作にはHigh-Voltage(12Vとか20Vとか)が必要で、既存のロジック用プロセスでは製造できないから、という理由であり、最先端なのが55nmといったところだ。もちろんこれには、MCUで必要となる様々なアナログ回路は、ロジック用の先端プロセスでは製造できないといった事情もあるので、単にFlashでのみ制約されている訳ではないのだが、一部のアナログ回路は45nm以下のプロセスでも製造できるようになってきている。あと、ロジック用先端プロセス(20nm以下)だと、そろそろ微細化してもプロセスルールほどには回路密度が上がらないという話になっているが(特にTSMCの16nmとかGLOBALFOUNDRIESの14nmで顕著で、配線層を20nmのものと共用する結果、理論上は回路密度がまったく増えない)、130nm~40nm程度の範囲で言えば、まだまだプロセスの微細化で回路密度が単純に増やせる。最近はMCUの分野でもSRAM容量とかFlash容量の増加への圧力が強く、にも関わらず価格を低く抑える要求は当然あるから、プロセス微細化はMCUベンダにとってある意味必須である。
そんなわけで、例えば65nmで製造していたMCUを40nmにもっていくと、それだけで回路密度を2.6倍に増やせるから、これはMCUベンダにとっては有難い話であり、Spansionがこれを次のライセンス収入源として重視しているのは当然ともいえる。
ということで本題。そんなわけでSpansionは、eCTに関する特許の保護には非常に熱心であり、強硬姿勢を崩さない。今回の電話会議はこれを強調するものであった(Photo01)。
ここにもあるようにSpansionは2013年8月に台湾Macronixを特許侵害があったとして提訴、同9月にはこの件でITCが調査を開始したとしている。もっともMacronixの方も負けておらず、Spansionの示した特許がそもそも無効であるとしており、とりあえずは真っ向からぶつかった形だ。
通常こうしたケースでは最終的に示談で話が決まる事が多いが、Photo01で「このようなケースにおいて、Spansionは示談に応じません。」とわざわざ書いてあるあたり、この訴訟は長引きそうである。
この訴訟をわざわざ電話会議で説明したのは、2つの狙いがあると筆者は理解している。1つはMacronixを使うユーザーへの牽制である。Photo01の「日本の顧客」という章にある通り、Spansionにとって日本は非常に大きなマーケットである。今年頭のMr.Kispert氏へのインタビューの際にもあったが、富士通のMCU/Analog買収以前ですら同社の日本における売り上げは全体の40%ほどだった。現在はそれに富士通のMCU/Analogの分が加味されるから、おそらくは5割を超えるのではないかと思う。したがって、もし仮に対Macronixの訴訟の中で、Macronixの製品を使う日本企業をも同時に訴えたりすると、同社が日本において反感を持たれたりすることでビジネスに深刻な影響がでる可能性も考えられる。これは同社にとって大きな痛手となりえるため、それもあってか「Spansionは、顧客が当社の知的所有権を侵害する企業から買わないことを推奨しています。」という、不気味なほどに柔らかい文面に繋がっているわけだ。 もう1つの狙いは、ルネサス エレクトロニクスへの牽制であろうと考えている。ルネサスエレクトロニクスもまた、同様に40nmプロセスにおけるFlash Memoryの開発を進めている。2012年5月にはTSMCと共同で開発を表明しており、MONOSと呼ばれる独自のNOR Flashの技術を確立しており、これを最終的にTSMCにライセンスする形になるのではないかといわれている。SpansionのeCTはUMCにライセンス提供を行っており(Photo02)、現在同社のeCTを使う場合はUMCの40nmプロセスを使わざるを得ない訳だが、もしTSMCが40nmプロセスでMONOSをベースにeFlashを提供できるようになると、ここからのライセンス収入は期待できない事になる。
もっともこれに関しては電話会議中、Pourkeramati氏にダイレクトに「ルネサスのeFlashはSpansionの特許侵害となるのか?」と尋ねたところ「そうではないと考えているが、ただもしルネサスがSpansionのeCTの特許ライセンスを取得したいのであれば、それは喜んで応じる」という返事が返ってきた。ルネサスはマイコン部門では競合メーカーではあるが、特に自動車向けNOR Flashでは非常に重要なパートナーであり、表立って競合するような立場は取れないということであろう。結果、非常に玉虫色というか、抽象的な内容に終始した電話会議であった。
ちなみにeCTテクノロジーは、UMC以外に関してはファウンダリ/OEMで興味を示しているところはあるが、具体的にはまだ決まっていないとの事。また富士通とは特許のクロスライセンス契約を結んでいるので、もし富士通が希望すればeCTベースの製品を作る事はまったく問題ないという話だった。この話がちょっと絡むのは、富士通に買収されたMCUシリーズの将来製品の話。先日開催されたARM Technology Symposiumのテクニカルセッションの折に、(Spansionの子会社として富士通のMCU/Analog部門の開発を行う)スパンション・イノベイツのセッションがあり、この中で将来計画として「現在半導体製造パートナーは富士通以外にもXMC/SK hynix/UMCがある訳で、これらのいずれかを使って将来製品を製造する」という説明があった(Photo03)。ただMCUという事を考えると、SK hynixはNANDの製造のみなので現実問題としてありえないから、XMCかUMCということになる。普通に考えれば、UMCの40nmプロセスで製造というのが、今後のFMシリーズの展開としては一番ありえそうに筆者には考えられる。