日本合成化学工業の大垣工場では、24時間365日稼動を支えるため、15年以上前に構築されたネットワークを一新し、冗長化された10Gのネットワークを新たに構築した。テーマは「止まらないネットワーク」だ。
同社は、機能性樹脂、機能性フィルム、情報電子材料、医薬原薬・中間体、ファインケミカル製品、工業薬品等の製造・加工・販売を行う化学メーカーで、国内には大垣工場、水島工場、熊本工場という3つの生産拠点を持っている。なかでも岐阜県大垣市にある大垣工場は、1927年の創設で、日本で初めての合成法による酢酸の生産に成功した日本合成化学工業の発祥工場だ。現在は、OPLフィルム、スペシャリティポリマー製品、医薬・農薬の中間体などの各種ファインケミカル製品などを生産している。
同工場では全社共通のメール、入出荷管理、勤怠、スケジュールなどのシステムのほか、工場独自に品質管理データ、メンテナンス情報、設計図などを管理するシステムを運用している。
これらを動かすためのネットワークは、1995年ごろ構築されたもので、敷地内の建物に張り巡らされている。このネットワークは、イエローケーブルと呼ばれる10BASE5で構築されているが、構築から15年以上が経過し、保守部品の入手が困難な状況になりつつあった。また、レスポンス遅延も発生し、ネットワークの更新時期を迎えていた。
「場内のサーバからファイルを取り出す際も重く、コリジョンも多数発生していました。メーカーからも保守部品を今後は提供できないと言われ、維持していくのが困難な状況になっていました」と、日本合成化学工業 生産技術本部 大垣工場 技術部 担当課長 兵頭利明氏はリプレースの背景を説明する。
そこで同工場では、2012年春ごろから新たなネットワークを構築する準備を始めた。兵頭氏がまず行ったのは、ネットワークの現状把握だが、ユーザーが勝手に追加した機器もあり、LANケーブルを1本ずつ辿りながら行う調査は非常に大変だったようだ。接続されている機器は、PC、ネットワークプリンタが中心だという。
「ネットワークが止まると現場から何とかしてほしいといわれましたが、以前は構成図もなく、何が原因で止まっているのかをつかむのが大変でした」と日本合成化学工業 生産技術本部 大垣工場 技術部 川上泰生氏も語る。
その後、現状調査が終わったところで新たなネットワークの設計に着手。重視したのは冗長化で、コンセプトは『何があっても止まらないネットワークを構築する』ことだったという。 「システムが止まると出荷伝票が発行できず、出荷ができない状況になるばかりでなく、入荷もできなくなることから、業務に大きく影響します。以前、決算用の棚卸しデータが本社に送れなくなったときは、本当に困りました」と兵頭氏。
新たに構築したネットワークは、2重化した10Gの光ケーブルをループ構成で棟間を接続、各棟ではPoEスイッチをスタック接続するというものだ。
すでに場内には建屋同士を接続するためのマルチ光ケーブルが敷設されており、当初はこれをそのまま残し、棟内のLAN環境のみをリプレースする予定だったが、採用したスイッチが想定していたよりも安価に購入できたため、光ケーブルもリプレースすることになったという。
その理由を兵頭氏は、「1Gのコストで10G化ができるのであれば、将来を見据えて10G化しておくべきだと思いました」と語る。
スイッチの選定では、4社の製品をリストアップ。カタログをチェックしたり、実際に取り寄せて試用したりした。そして、最終的に選択したのは、ネットギアのスイッチだ。
実際に導入したのは、ギガビット24ポート L2+スタッカブル・フルマネージスイッチ(10G/PoE+給電タイプ)の「M5300-28G-POE+」、ギガビット 12ポート L2+フルマネージスイッチ(PoEパススルータイプ)の「M4100-D12G-POE+」、ギガビット10ポート スマートスイッチ(PoE給電タイプ/デスクトップ)の「GS110TP」、ギガビット8ポート スマートスイッチ(デスクトップ)の「GS108T」で、全部で80台ほど。
M5300シリーズ。最上段が「M5300-28G-POE+」 |
ネットギアを選んだ理由を兵頭氏は、「コストパフォーマンスが高かったのがもっとも大きな理由です。他社製品の場合、見積もり額がネットギアさんの2倍程度のものもありました。また、10Gの光ループで冗長化が組め、スタック接続に対応し、その配下に接続できるPoEスイッチがあるのはネットギアさん以外にはありませんでした」と説明する。
PoE(Power over Ethernet)スイッチを導入したのは、内線として利用しているPHSを将来IP電話化する際にPoE接続することを想定していたためだ。また、冗長化する狙いもあったという。
「M4100-D12G-POE+のパススルー機能を使用すると停電があった場合でも、メインスイッチをUPS接続しておくことによってIP電話の電源を確保し、システムを継続して利用できます。」(川上氏)
兵頭氏も「ここは化学工場なので、何かあった場合でも状況を把握できる状態にしておく必要があります。たとえ停電した場合でも、IP電話が機能すれば、連絡を取ることができます。末端のスイッチ1つ1つにUPSを置くのは非現実的なので、PoE対応スイッチは必須でした」と語る。
ネットワークは、新旧で並存させ、1カ月をかけ、週末や昼休みを使って棟単位で順次切り替えていった。切り替え後はトラブルもなく稼動も順調だ。リプレース前に多発していたトラブル等も、リプレース後はまったく発生していないという。
大垣工場では、場内のネットワーク整備が完了したため、今後はIP電話の導入、WANをより広帯域の回線に変更することを計画している。そして、テレビ会議システムや現在アナログ方式の監視カメラをIPカメラに変更することも視野に入れている。10G化され、帯域に余裕ができたことから、さまざまなIP機器が接続可能だ。今後は20年先を見据えた新ネットワークが、さらに威力を発揮することになるだろう。