2003年創業以来、革新的な製品を生み出し続けているバルミューダ株式会社。特に、2010年に発売された扇風機「GreenFan」は、自然で心地いい風を生み出すと評判になり、独立系メーカーによる家電製品としては異例とも呼べる大ヒットとなった。 今、日本国内において、もっとも注目される家電メーカーとなったバルミューダ。同社が考える「ものづくり」へのこだわりについて、社長である寺尾 玄氏に話を伺った。
苦境の中で生まれた想いが、企業を起死回生へと導く
2003年の設立後、バルミューダは主にノートPCの冷却台やLEDのデスクライトの製造販売などを行っていた。洗練されたデザインと機能によって高い評価を得ており、企業としても順調に成長していった。その状況が一変したのは2008年のリーマンショックだった。 どちらかと言えば高級品に分類されていた同社の製品は、不景気が訪れたことによりまったく1台も売れなくなってしまったのだ。
そこで、これからどうすべきかを見つめ直した時、「もっと人に必要とされるものをつくって、それを多くの人に使ってもらいたいという想いが強くなりました」と寺尾氏は語る。 では、何が必要とされているかと考えた結果、寺尾氏が辿り着いた答えが「地球温暖化」「化石燃料の枯渇」というキーワードだった。
既存の製品では生み出せなかった、本当に「涼しい」と感じる風とは?
「地球温暖化や化石燃料の枯渇などの環境問題は、ここ50年では最大のムーブメントだと思っています」と寺尾氏は語る。 地球温暖化によって、10年後は、もっと暑くなるだろう。その一方で、省エネや節電などの影響でエアコンやヒーターが思うように使えない状況になっているかもしれない。そんな時代において、人々はどう暮らしていくのか? 人々からは何を求められていくのか? それらを考えた上で、寺尾氏が着目したもの、それが「扇風機」だった。
当時の家電市場における扇風機は、冷房機器の主役をエアコンに奪われた、過去の存在でしかなかった。そのため、安くて風が送れればいい、というような安直な発想の製品ばかりが店頭に並んでいた。寺尾氏は、そこに違和感を覚えた。「メーカー目線で見れば、扇風機は風を送り出す機械でしかありません。しかし、お客様目線で考えると、扇風機は単に風を送る機械ではなく、涼しくなるための機械でなければなりません。となると、そもそも今の扇風機は涼しいのだろうか、という疑問が湧いてきたのです」(寺尾氏)
従来の扇風機でも風が当たれば涼しさは感じる。だが、長時間にわたってその風に当たり続けると、体に不調を感じ、結局は首振りにしてしまう。そのような経験がある方も多いはずだ。
「涼しい」という言葉には、「さわやか」や「心地いい」という意味合いも含まれる。風を浴びて不調を感じるようでは、それはもはや「涼しい風」とは言えない。 自然界の風のように、いつまでも浴び続けられる心地いい風、それこそが人々の求める「涼しさ」ではないか。そのような発想から生まれた製品が、「GreenFan」だった。
ここで簡単に「GreenFan」の原理について解説しよう。 従来の扇風機では、風は渦を巻いて送り出される。渦を巻いているため、風が固く強く感じられ、結果として体に負担が掛かってしまっていた。「GreenFan」では、速度が違う二種類の風をぶつけることで、風を面として送り出す。これが、まるで窓から入ってくるような体に優しい自然界に近い風を生み出している。
一歩先を進み、新たな市場を発掘する
当時、冷暖房機器の市場には、「GreenFan」のような発想の製品は存在しなかった。約3万円と高価だったこともあり、様々な販路に持ち込んでも、思うように商談は進まなかった。 しかし、2010年に「GreenFan」が発売されると、新しいコンセプトの扇風機として話題となり大きな注目を集めた。そして、周囲の予想を覆し、生産が追いつかなくなるほどの大ヒット製品となった。「GreenFan」が登場して3年経った今、家電量販店には当然のように数万円クラスの高級扇風機が並んでいる。これはつまり、「GreenFan」の登場によって、新たな市場が生まれたことに他ならない。
「需要がなかった訳じゃない。本当は必要だった。そこに気が付いて、一歩先を進むことで、新たな市場を見付けることができるのです。これからも我々は、常に一歩先を目指していきます」(寺尾氏)
「GreenFan」を始め、新たなコンセプトのもとに業界を席巻する製品を次々と生み出すバルミューダ社。同社では、11月に新製品の暖房器具「Smart Heater」と、加湿器「Rain」を発表。
彼らの「ものづくり」を支えるのは繰り返し行われる試作と実験である。次回は、その具体的な流れについて紹介する予定だ。
バルミューダ株式会社 代表取締役社長 寺尾 玄
17歳の時、高校を中退。スペイン、イタリア、モロッコなど、地中海沿いを放浪の旅をする。帰国後、音楽活動を開始。大手レーベルとの契約、またその破棄などの経験を経て、バンド活動に専念。2001年、バンド解散後、もの作りの道を志す。独学と工場への飛び込みにより、設計、製造を習得。2003年、有限会社バルミューダデザイン設立(2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。同社代表取締役。