ショールーミングとは?
ECの浸透により、特に家電などを中心に数年前から顕著になってきた消費行動で、実店舗で商品の性能やサイズ、質感などを確認し、オンライン上で購買を行うことをショールーミングという。ECに慣れてきた消費者の多くは、実店舗よりもオンライン上の方が価格が安くポイントももらえることから、購入自体はECで行いたい。しかし実物を確認しないと購入に踏み切りにくいためこのような購買行動が多くなってきている。
そのため、実店舗メインの小売事業者は売上が下がり続け、非常に危機感を持っている。オンラインで購入するユーザーの実に7割が事前に実店舗で商品を実際に確認するというデータ(NRI生活者1万人アンケート)もある。
今回は、ZOZOTOWNがショールーミングを加速するようなコンセプトの新アプリ“WEAR”をリリースしたことで、どのような影響がアパレル業界に起こるのかを考えていく。
*本記事は「Eコマースコンバージョンラボ」からの寄稿記事を一部SMMLabで編集してご紹介しています。
ZOZOTOWNの新アプリ“WEAR”
ZOZOTOWN(http://zozo.jp/)はいわずと知れた国内最大手のファッションECモール。掲載されているブランド・品揃えの多さと、デザイン性・使い勝手のよさから、楽天・Amazonの2強となっている国内EC市場において、アパレルカテゴリで互角以上の存在感を示している。そのZOZOTOWNから10月31日に新サービスWEAR(http://wear.jp/)がリリースされた。
WEAR は「WEAR FOR CONNECTION」をテーマに、バーコードスキャン機能や、アイテム情報と連携したコーディネート画像の提供などを通して、ショッピングをより楽しみ、コーディネートの参考にするファッション特化型のサービス。(プレスリリース)
主な機能は3つに大別される。
コーディネートレシピ機能
著名人やファッショニスタ、ショップ店員のコーディネートを見て、保存でき、さらにはそのコーディネートに使ってるアイテムを確認することが可能
マイクローゼット機能
既に持っているアイテムの情報や新しく買ったアイテムの情報を記録し管理することが可能です。また、そのアイテムを使ったコーディネートの保存や閲覧が可能
バーコードスキャン機能
商品タグのバーコードをスキャンすることにより、 アイテムの詳細情報やコーディネート例が閲覧できる 機能
WEARにおいて注目すべき機能は、バーコードスキャン機能だ。この機能はZOZOTOWNにとってもろ刃の剣であり、今後の行方を大きく左右する可能性を持っている。
機能を理解してもらうためにこの動画を見て欲しい。
店頭で商品をスキャン⇒SNS機能等で検討⇒購入(店頭またはZOZOで)⇒共有
というのが一連の流れとなっている。
この動画で予想された未来がくると、いよいよ店舗のショーウィンドウ化がすすむことが予想される。それは、動画内では「BUY IT!」で済まされていた購入のフェーズから分かる。リリースされたアプリでは、当然ながらアプリ内から直接購入への導線が引かれているのだが、ZOZOTOWNでの購入とブランドの独自サイトでの購入を消費者が選べるようになっている。
つまりは、消費者は店頭では商品のチェックとブックマークだけを行い、購入がECで行うというサイクルが生まれるようになるのだ。
果たして、そのような未来はやってくるのだろうか?
WEARが切り込むショールーミング
現在、WEARはPARCOと提携し「新しい買い物体験実験中」と称してアプリをユーザーに体験してもらうキャンペーンを展開している。
それに対して、LUMINEは全館店舗での写真撮影禁止(実質上のWEARの使用禁止)としており、対応が大きく別れているのが現状だ。PARCOがアプリの使用を許可した背景には、店頭でスキャンされた商品がアプリ経由で売れた場合にマージンが支払われる仕組みがあるようだ。
PARCOとLUMINEの対称的な対応にWEARが今後生き残っていけるかのポイントが隠れている。
WEARでの買い物、つまりZOZOTOWNで商品を購入されることは店舗を構えているファッションブランドにとって大きな損失であり、ネットでの購入を促進するWEARはそのままでは受け入れられないだろう。
都内の有名ショップの販売員に現状を聞くと、
“僕たちは毎日日々の予算を確保し、どれだけ商品が売るのか、ということで評価されている。そんな中で店頭でお客様がWEARのアプリを使うのは正直好意的には受け取れない。もし、WEARを使ってるお客様がいたらどうやったらネットではなく、うちのお店で買ってくれるかを考えるだろう。”
という答えが返ってきたことからも、その乗り越えるべきハードルの高さを感じることができる。
WEARが現場で受け入れられるサービスとなっていくためには、ZOZOTOWNだけが独り勝ちの環境にするのではなく、既存のブランドにとっても十分なメリットを提供するwin-winの関係をいかに構築していくのか、ということにある。
では、WEARがユーザーに提供する価値はどのようなものになるのか。一言で言うと、「オシャレなアイテムやコーディネートをコレクションし簡単に比較検討できる」ということにつきるだろう。お気に入りのショップスタッフをフォローしたり、”ボーダー”等のタグ付けからコーディネートを検索したり、また、店頭でスキャンなど、さまざまな機能によってアプリ内にオシャレを貯めていける。
一連の多くの機能は一部のファッションに強く興味を持っている人には歓迎されるだろうが、普段はファッション雑誌を眺める程度の大多数のユーザーにとっては複雑かつ、あまり興味を持てない機能だろう。
つまりは、WEARのもうひとつの課題はユーザーに提供する価値をもっとシンプルに、かつ、魅力的にしていくことだろう。
日本でショールーミングは浸透するのか?
WEARのこのような動きにより、今後の国内のアパレルECではショールーミングが進むのだろうか。先述の通り、売上げをEC事業者にとられてしまう各ブランドにとっては死活問題だ。
これについて現場では、
“最近、スマートフォンの普及に伴ってZOZOTOWNやオンラインショッピングを見てからご来店されるお客様は非常に多い。実際、お客様の数%はネットショッピングを利用しているように感じる。ですが、反対に「服は着てみないと不安」や「ZOZOで見つけて実際に見たくてきた」という声を多く頂くので、あまり脅威には感じていない。”
という声が聞かれた。
ショールーミングの侵略を経営層は脅威に思っているようだが、思いのほか現場レベルではそうではないようだ。
アパレル領域において、ショールーミングが消費者に浸透していない理由は、“実店舗と比較してECが価格面での優位性を提示していないこと”が挙げられる。消費者が家電や書籍をインターネットで買うのは、商品を店頭よりも安く購入できるというメリットと、店頭に行かなくても家まで届けてもらえて手軽、という2つのメリットがあるためだ。
しかし、現在アパレルECにおいては、ZOZOTOWNと店頭の価格を比較しても価格は同じであり、ECで買うメリットは見出しにくい。(一部のインポートブランドの正規よりもかなり安く販売さているものは別として)
さらには、消費者が店頭に一度商品を確認してみるのであれば、その時に気に入れば買って持ち帰ってしまえばよいため、手軽さというメリットもあまり感じられないだろう。
そうすると、消費者がショールーミングによって得られるメリットはゆっくりと比較ができる、などしかあげられず、ショールーミングが根付いていくための動機付けとしては弱いだろう。
今後のアパレルECの行方はテクノロジーが店頭で購入すること以上のメリットを消費者に提供できるかどうかにかかってくる。
その一つの可能性としては、ソーシャルメディアと連携することで他者とのコミュニケーションを行ないながらの新たな買い物の形や、ビックデータを利用した精度の非常に高いリコメンドなどに活路があるのではないだろうか。
WEARが切り込んだアパレルのショールーミングの壁は高そうだが、その挑戦は新たな未来を作っていく可能性も十分に秘めているのではないだろうか。
ライター紹介
西澤 優一郎 (Yuichiro Nishizawa)
エンパワーショップ株式会社 代表取締役。Web・ECコンサルタント。1999年、慶應義塾大学大学院を卒業し、アクセンチュア株式会社に入社。伊藤忠テクノソリューションズ株式会社ビジネスコンサルティング本部を経て、04年に株式会社CREVIAを設立し、その間、大手メーカーのグローバルWebガバナンス、Webマーケティング戦略検討に従事。
09年にエンパワーショップ株式会社を設立し、EC業界において、「運営はもっと簡単に行えるべき」の哲学のもと、ユーザーの動向を体系的に評価・分析するEC特化型アクセス解析サービス、業界唯一のECサイト運営に特化したクラウドソーシングサービスの展開に取り組む。12年よりネットショップマスター資格認定講座の講師も務める。
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