クオリーメンと南東北病院グループは12月10日、「『次世代再生医療』南東北病院グループによる臨床研究開始」という会見を開催し、細胞を使わない、再生因子による「次世代再生医療」を開発したこと、ならびに肝硬変・糖尿病の患者を対象に、臨床試験を2014年春より開始することを発表した。会見には、クオリーメンの山下靖弘代表取締役社長、南東北病院グループの渡邊一夫理事長、同グループに所属する東京クリニックの照沼裕副医院長が登壇し、各々が説明を行った。

画像1(左):クオリーメンの山下靖弘代表取締役社長。 画像2(中):南東北病院グループの渡邊一夫理事長。 画像3(右):東京クリニックの照沼裕副医院長

幹細胞などから分化させた細胞を、体内に直接移植する「幹細胞による再生医療」は、損傷を受けた生体機能を再生させる新たな治療方法として注目されている。この再生医療で中心的な役割を担う幹細胞として最も注目されているのがiPS細胞だ。そして、ES細胞や、歯随や骨髄、脂肪、臍帯血などに由来する「体性間葉系幹細胞」なども含め、多分化・増殖能を持つ細胞の利用が広<研究されており、これまで治療ができなかった病気の新たな治療法として期待されているのである(画像4)。

画像4。再生医療は期待されているが、課題もある

しかし一方でそれぞれ課題が存在しているのも事実だ。例えばiPS細胞は、いまもって狙った細胞に分化させるための技術が、一部の細胞を除いてまだまだ確立されていない。そして、がん化の可能性があるという大きな問題が存在する。ES細胞も、本来ならそのまま成長させれば生命となる胚を壊す形で採取を行う。非常に倫理的に大きな問題があるのである。

そのほか、「骨髄の採取・脂肪吸引・歯髄採取などの処置を、それぞれの患者に対して行わなければならない」、「採取した細胞を培養・輸送する際の管理体制」、「培養細胞の品質確保」、「投与した細胞の生着率」、「細胞の採取・培養には時間が必要なため、脳梗塞や脊椎損傷をはじめとする病気の急性期に治療を行いたい場合にベストなタイミングを逃してしまう可能性がある」といった問題が存在しているのだ。

こうした課題を解決するための方法として、考案されたのが、幹細胞そのものを投与するのではなく、幹細胞の「培養上清」に分布される「再生因子」を投与するという新たな治療法の「次世代再生医療」である。培養上清とは、細胞を培養する際の上澄み液のことだ。また再生因子とは、体性間葉系幹細胞から培養上清に分泌された、100種類以上のさまざまな種類の「サイトカイン」が混合した液性因子である(画像5・6)。さらにサイトカインとは、細胞間でやり取りされる多様な生理活性を持つタンパク質の1種のことだ。

画像5(左):再生因子とは、幹細胞が産生する100種類以上のサイトカインの混合物。画像6(右):iPS細胞などを直接埋め込む従来の再生医療と、今回の再生因子による再生医療の比較

細胞自体を体内に移植する再生医療においては、移植した細胞自体の効果のほかに、移植した細胞から分泌されるサイトカインが、組織の再生に重要な役割を果たしていることが明らかになってきている。そしてこのサイトカインが、もともと体内に存在している幹細胞や修復に関わるべき細胞に働きかけ、より自然に近い形で組織を再生していくことが期待できることが明らかになってきたというわけだ。

上清作りにどの体性幹細胞が適しているかということでは、歯随由来幹細胞が優れた増殖能を持つこと、歯随由来幹細胞の再生因子だけが有効であることから、歯随由来幹細胞が選ばれている。同細胞のサイトカイン遺伝子の発現、同細胞とヒト体細胞での炎症性および抗炎症性サイトカインの遺伝子発現などのデータは画像7~9の通りだ。

画像7(左):歯随細胞由来幹細胞は優れた増殖脳を持つ。画像8(中):歯随由来幹細胞におけるサイトカイン遺伝子の発現。画像9(右):ヒト体細胞と歯随由来幹細胞での炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの遺伝子発現

この再生因子による再生医療の最大のメリットは、細胞そのものを投与しないため、iPS細胞が現在のところ抱えている最大の問題である「細胞のがん化」の危険性を回避できる。また、患者自身から細胞を採集・培養する必要がないこと、品質のよい「再生因子」をあらかじめ作成しておき、必要に応じて容易に輸送することも可能といった点も大きなメリットだ。このように、再生因子を使った次世代再生医療では、現在の再生医療の課題を解消することが可能になるのである。なお、歯随由来幹細胞の再生因子を動物モデルに用いて、有効性が学会で報告された疾患は以下の通りだ(画像10)。

画像10。動物モデルでの有効性が学会で報告されている疾患

再生因子による再生医療の実用化に向けてまず必要となることは、ヒト由来の幹細胞の安定的な調達だ。しかし、それには幹細胞の寿命がネックとなっていた。再生因子を作るにはヒト由来の幹細胞の培養が必要なわけだが、幹細胞は寿命が短いために培養過程で健康な細胞は激減し、1カ月ほどで使えなくなってしまうのだ。この問題が大きな障害となっていた。

そこで今回は、国内のとあるバイオ企業(社名はその企業の他社との契約事情により、諸般の事情により明かせないとのこと)への委託が行われ、初代培養歯随由来幹細胞に「不死化」という技術が施された。そして約1年をかけて、増殖が速く、サイトカインの生産量も多い「不死化幹細胞」の作成に成功したのである。

不死化細胞を樹立する際の流れは画像11の通りだ。不死化遺伝子の導入には、レンチウイルスをベクターとして使っているそうだが、もちろんその部分は企業秘密のため、詳細は明かせないという。また、不死化歯随由来幹細胞の遺伝子発現を初代細胞と比較したのが画像12だ。

画像11(左):不死化細胞の樹立までの流れ。 画像12:不死化歯随由来幹細胞と初代細胞の遺伝子発現の比較

なお、幹細胞の不死化が可能なら、ヒトの体に応用すれば、少なくとも長寿化は可能なのではないかと思う方も多いことだろう。だが残念なことに、今回の方法は生体に使うことは不可能だそうである。ヒトの生体内の細胞を不死化するのは、まだしばらく先の話のようだ。とはいっても、培養細胞では可能になったという点は衝撃を覚えずにはいられない。もちろん、不死化幹細胞を医療技術に応用した例は世界で初めてだ。

ちなみに、ヒトの体に応用ができないのなら、そんな幹細胞が産生するサイトカインを再生因子として使用して大丈夫なのか不安になるかも知れない。その点も現時点では動物実験で問題がなく、小型のマウスから現在は中型のビークル犬に変更して実験を進めているという。

ともかく、今回の研究により、ヒト由来の幹細胞の長期にわたる安定調達が可能となった形だ。歯随を繰り返し確保することも不要となり、品質の安定した培養上清の量産化・コスト削減に加え、ヒト病原性ウイルス否定試験、最近混入否定試験、サイトカイン量の測定などによる安全性・品質の確保がなされている。このように次世代再生医療の実用化が大きく前進する形となった。クオリーメンは、この不死化幹細胞を使用した再生医療に関する特許を取得しているという。

量産体制については、さらに自動培養装置の開発を試みているとした。前述したように不死化幹細胞には再生因子を安定して生産する能力があることから、さらに再生因子を大量に生産するための自動培養装置の開発が検討されている。この技術により、現在よりさらに量産体制が可能になることで、将来的にはより低コストでの再生因子の生産が期待されるという。

そして今後の展望としては、肝硬変と糖尿病で臨床開始することも発表された。再生因子を用いた再生医療の対象疾患は、これまで動物モデルで有効性が発表されている「脳梗塞」「脊髄損傷」「肝疾患」「糖尿病」「肺疾患」など、今後いろいろな展開が考えられるとするが(画像13)、今回は、これらの疾患の内、臨床効果や副作用の出現が投与の前後で確認しやすい病気として「肝硬変」と「糖尿病」を対象とする臨床研究について、院内の倫理委員会の承認を受けたとする。

画像13。再生因子を用いた再生医療の可能性

具体的な臨床研究を実施する病院などについては、肝硬変は神奈川県川崎市の新百合ヶ丘総合病院で、糖尿病は福島県郡山市の総合南東北病院で、それぞれ対象患者を6名ずつ選び、インフォームドコンセントを得た上で、2014年の春(3~4月ごろ)に再生因子の投与を開始する予定とした。

投与の方法としては、肝硬変は静脈内投与を、糖尿病は静脈内投与か鼻腔内投与を選択する形だ。今回の臨床試験では、まず安全性の確認を第一の確認項目とし、その後は有効性の検討を行い、さらに先進医療の認定を目指すとしている。

今回の臨床試験により糖尿病での安全性が確認されれば、糖尿病の合併症(腎機能障害、末梢神経障害、壊疽など)に対しても治療効果を検討するとしている。また、肝硬変での安全性が確認されたのちには、慢性肝炎や急性 肝炎についても臨床範囲を拡げることを検討するとした。

なお、歯随由来幹細胞は神経幹細胞としての性格もあり、ニューロンや「オリゴデンドロサイト」、「アストロサイト」などの神経系にも分化することも確認済みだという(画像14)。それにより、「脳梗塞」や「脊髄損傷」を初め、「アルツハイマー型痴呆症」、「パーキンソン病」、「多発性硬化症」、「筋萎縮性側索硬化症」など、さまざまな神経系の病気にも「再生因子」が有効であることが期待されるという。実際に「脳梗塞」や「脊髄損傷」の神経疾患モデル動物で、再生因子が有効であることがすでに発表されており、これらの疾患への応用も検討する予定とした。そのほか、再生因子の抗炎症作用の応用としては、「間質性肺炎」、「アトピー性皮膚炎」、「関節炎」なども挙げられていた。

画像14。歯随由来幹細胞の神経幹細胞としての性格

また再生因子の産業化については、再生因子の長期保存を可能としたことから、「アンチエイジング」、「毛髪再生剤」、「創傷治癒製品」、「食品」の4項目について挙げる(画像15)。このほかにも多数の計画があるということだが、今回はこの4項目が紹介された。各項目の中には、まずアンチエイジングは、シミやシワ対策など。毛髪再生材は育毛と発毛。創傷治癒製品はクリーム、包帯、ガーゼなど。そして食品はサプリメントを挙げている。

具体的な効能として紹介されたのが、アンチエイジングと毛髪再生。画像16の上が皮膚再生経過観察で、使用前と1年後。肌の艶がまるで違うのがわかる。そして下は毛髪再生経過観察だが、使用前→2週間後→1カ月後とあるが、目に見えて変化しているのがわかる。

仕組みとしては、再生因子による皮膚や血管の細胞再生機能をアンチエイジング・毛髪再生に応用した形だ。美容プロフェッショナル商品として、再生因子をイオン導入という美容法で、皮膚や頭皮に浸透させる美容液を開発して販売をすでにスタートさせているとした。

画像15(左):再生因子の製品化例。 画像16(右):再生因子の実用例。アンチエイジングおよび毛髪再生

画像17(左):再生因子配合化粧品。画像18(右):再生因子

なお、今回の臨床試験は無償で行われる。興味のある方は、総合南東北病院トップページ右下の「お問い合わせはこちらまで」の「よろず相談」を選択し、メールにて連絡する形だ。6名ずつと決して多くはないが、対象である方で興味のある方は、ぜひ問い合わせてみてはいかがだろうか。