東北大学は、赤血球をつくる際に必要となる造血ホルモン「エリスロポエチン(EPO)」を生み出す細胞がマウス胎児の神経系組織に存在することを発見したと発表した。
同成果は、同大大学院医学系研究科の鈴木教郎 講師(新医学領域創生分野)、同 平野育生 助教(分子血液学分野)、同 山本雅之 教授(医化学分野、東北メディカル・メガバンク機構 機構長)らによるもの。詳細は英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。
哺乳類の胎児は、子宮内での発育(個体発生)が進むと、大きくなった身体にくまなく酸素を運搬するために、赤血球を利用するようになり、その最初の赤血球がつくられる場所(造血部位)は「卵黄嚢」と呼ばれる胎児期のみ存在する臓器であることが知られている。また、さらに個体発生が進むと造血部位は肝臓に移行し、大人では骨の内部「骨髄」が造血部位として使われることとなる。 また、赤血球をつくるためには、赤血球を増やす働きを持つ造血ホルモンの一種であるエリスロポエチン(EPO)が不可欠で、もしEPOをつくることができなくなると貧血を発症することとなる。
これまでの研究から、胎児が肝臓で造血を行うためには肝臓から分泌されるEPOが必要であり、骨髄での造血には腎臓から分泌されるEPOが作用していることがわかっていたが、卵黄嚢で赤血球をつくる際に、どこからEPOが供給されているかは不明となっていた。
マウスは受精から20日間は胎児として子宮内で発育します。赤血球のもとになる細胞は、卵黄嚢で 成熟し、受精後9日目頃から赤血球が胎児の体内を循環し始めます。
今回、研究グループは、EPOをつくることのできないマウスを解析し、卵黄嚢での赤血球産生にEPOが必要であることを証明した。また、EPOをつくる細胞が蛍光を発する遺伝子改変マウスを用いて、さらなる解析を行ったところ、EPO産生細胞は、赤血球が胎児の体内を循環し始める受精後9日目の直前である受精後8日目ころに、将来脊椎になる部位「神経管」の周辺に最初に出現することを発見したという。
研究グループでは、これらの細胞を「NEP細胞(Neural Epo-producing細胞)」と命名し、さらなる解析を行った結果、「神経上皮細胞」および「神経堤細胞」に分類される細胞群のうち、一部の細胞がNEP細胞であり、実際にEPOを分泌していることを確認したという。
神経堤細胞は、胎児の神経管周辺の「神経堤」で形成され、個体発生に伴ってさまざまな臓器に自ら移動する特殊な細胞で、今回の研究では、NEP細胞が移動先にむかって列をつくって並んでいる様子を捉えることに成功したという。
さらにNEP細胞でのEPO産生は、卵黄嚢での赤血球産生が終わり、肝臓での造血が主流となる受精後11日目までに消失することを確認。これらの結果から、哺乳類の個体発生において、最初にEPOをつくる場所はNEP細胞であり、NEP細胞から分泌されたEPOは卵黄嚢での赤血球産生を促すことが示されたとする。
研究グループでは、今回の研究から胎児期の造血メカニズムの一端が解明されたことを受け、哺乳類における造血機構に新たな知見が加わったほか、腎臓、肝臓に加えて、新たなEPO産生部位「NEP細胞」を発見したことにより、生体がEPOをつくる仕組みへの理解が進展したと説明。慢性腎臓病では、腎臓からのEPO分泌が低下し、貧血を発症することがあるが、今回のメカニズムの理解を深めていくことで、腎性貧血の病態解明が進み、効果的な治療法の開発に繋がることも期待されるとしている。