科学技術振興機構(JST)は12月11日、東京工業大学 大学院理工学研究科の田中順三 教授らの研究成果を基に、HOYAに委託して、同社ニューセラミックス事業部(会社分割により現在はHOYA Technological)にて企業化開発(開発費約4.2億円)を進めてきた独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「生体置換型有機無機複合人工骨の製造技術」の開発結果を成功と認定したと発表した。
骨腫瘍や骨折などで欠損した骨組織を修復する治療において、従来は骨再生に優れ、免疫や感染の問題がない自家骨の移植が中心であったが、採取量の限界や2次的侵襲、採取部位に残る痛みなど身体への負担が大きいという課題があり、セラミックスを用いた人工骨の利用も行われるようになってきた。
今回のプロジェクトは、自家骨に近い、もしくはそれ以上の骨再生を持つ人工骨の開発を目指したもの。これまでの研究でも、人工骨の主成分として一般的であった水酸アパタイトではなく、吸収置換性に優れるβ型リン酸3カルシウムを用いた人工骨が開発され、整形外科分野で活用されるようになってきたが、β型リン酸3カルシウムはもろく手術時の操作性が難しく、一部の症例において材料のみの吸収が先行し充分な骨再生が得られない、材料が残留し骨再生が遅れるなどの問題点が報告されるようになっており、新たな人工骨の開発が求められていた。
今回の研究では、これまでの問題点を克服することを目指し、3つのコンセプトのもと、人工骨の開発が進められた。1つ目は、「弾力性を持たせて手術時の操作性を向上させる」というもので、既存のセラミックス人工骨の短所である"もろさ"の克服に向け、生体高分子であるコラーゲンと複合化を図ることでセラミックス人工骨にはない弾力性を付与することに成功した。
この結果、人工骨もしくは自家骨を加工せずにそのままつまんで、術場にあるメスやハサミなどで簡単に加工できるようになり、手術時の人工骨の操作性を向上させることが可能となった。また、弾力性があり材料自身が変形可能なため、複雑な形状の骨欠損部に対して補てん不良を生じずに補てんすることが可能となったという。
2つ目は「生体骨と同じ成分・組成を持つ」というもので、材料のみの吸収や材料の残留による骨形成不全の克服を目指し、生体骨と類似した成分組成(1型コラーゲンと水酸アパタイト)を採用。これにより、生体骨と類似した成分となり、人工骨が生体内の骨代謝サイクルに取り込まれ、結果として自家骨へ早期に吸収置換することを狙うことが可能になったという。
そして3つ目は、「生体内で自家骨への吸収置換性を持つ」というもので、生体骨と類似した成分組成とすることで、従来製品より優れた「吸収置換性」を実現したという。実際に行われた有効性確認試験の結果では、ウサギの脛骨内に直径5mmの欠損を作製し、直径5mm、厚さ3mmの試作品を埋植後、12週まで経過を観察したところ、同試作品を骨欠損部に移植した場合、生体内の骨代謝サイクルに取り込まれ、骨芽細胞による人工骨周囲および内部での骨形成と破骨細胞による人工骨の吸収が同時に起こり、最終的に自家骨へ置換されることが確認されたという。
また、臨床試験において骨形成を評価したところ、術後24週における同開発品の著効率(人工骨が完全に吸収され、自家骨と同一な状態)が65.1%となり、従来製品の44.4%と比べ優位性が確認されたという。
なお、同開発品は販売名「リフィット」として2012年6月に医療機器製造販売承認を取得し、2013年1月に保険適用を受けており、現在、一部の医療機関の手術に使用されているという。また研究グループでは、自家骨や従来製品の代替となるだけでなく、再生医療での足場材料としての利用など幅広い分野に適用領域が広がることで、人工骨市場の拡大につながることも期待できるとしている。