物質・材料研究機構(NIMS)は12月6日、III-V族窒化物半導体に多重の中間準位(バンド)を形成することで、太陽光の高効率吸収に利用することに成功したと発表した。
同成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ICYS-MANA研究員のサンリウエン博士(科学技術振興機構 さきがけ研究者)、ワイドギャップ機能材料グループの角谷正友主幹研究員らによるもの。詳細は、「Advanced Materials」に掲載される予定。
太陽電池は、太陽光エネルギーを吸収して電気エネルギーに変換できる波長の範囲が半導体材料のバンドギャップによって決まるため、その理論的な変換効率は用いる半導体材料と太陽光スペクトルの波長構成の組み合わせによって決定される。変換効率を向上させるためには太陽光のエネルギー(波長)を広い範囲で吸収する必要があり、InGaP、GaAsなどの化合物半導体系材料でみられるようにバンドギャップの異なる材料からなる太陽電池を直列につなげたタンデム型が提案され、研究されている。しかし、タンデム型太陽電池には、適切なバンドギャップを持つ材料を選定すること、およびその材料を組み合わせ、積層するための複雑な製作技術に課題がある。
また、別の方法として本来のバンドギャップの中間となるバンドギャップを持つ準位(中間バンド)を形成し、本来のバンドギャップよりも長い波長範囲の光を利用することが提案されている。しかし、その中間バンドは単一のレベルしか形成することができなかった。そこで、研究グループでは白・青色発光デバイス(LED)材料にも使われている大きなバンドギャップを持つGaN(3.4eV)、小さなバンドギャップを持つInN(0.65eV)を組み合わせる混晶化によって得られるInxGa1-xN材料を用い、複数の中間バンドを形成できれば、太陽光スペクトルの全領域をカバーできる可能性があることに着目。これにより、変換効率の大きな向上を実現できるのではないかと考えた。これまでにInGaN系材料で中間バンドの形成を確認した報告はないという。
研究グループでは、有機金属化学堆積法(MOCVD法)でn型InGaN層上に発電機能を発揮する領域(i層)として、InxGa1-xN量子ドットが埋め込まれたInGaN/GaN量子井戸構造を30層導入した太陽電池を作製した。
(a)MOCVDによるInGaN多重準位中間バンド太陽電池の構造、(b)InGaN多重準位中間バンド太陽電池のバンドダイアグラム概略図。2.40、2.29、1.97eVの中間準位を持つ中間バンドが形成されている |
この太陽電池の外部量子効率を測定したところ、本来のInGaNのバンドギャップエネルギーよりも低い(長波長)領域でも太陽光を吸収し、電気エネルギーに変換していることが分かった。すなわち、本来のInGaN型の太陽電池では、約400nmよりも短波長側の太陽光成分のみしか電気エネルギーに変換できなかったのに対し、今回の研究による中間バンド型太陽電池では450~750nmの波長範囲の光も含めた広い範囲の太陽光成分(可視光)を吸収して電気エネルギー変換できることが示された。
これらのデータを理論計算も含めて解析した結果、研究グループが作製した太陽電池では、30層のInGaN量子ドット/GaN量子井戸構造によって、2.40、2.29、1.97eVといった複数の中間準位を持つ中間バンドが形成されていることが確認された。この結果は、カソードルミネッセンスの深さ方向分析と断面透過型顕微鏡観察によるIn組成分析の結果とも一致していた。これらの中間バンドは、InGaN量子ドットの閉じ込めとドット間のカップリング効果によってそれぞれのエネルギー準位が形成されたことによるものと考えられる。
同太陽電池の特徴は、複数の中間バンドが形成されていることであり、本来のInGaNが吸収できる波長以外に太陽光に含まれる広い波長成分をより多く利用することが可能となる。今後の研究により、それぞれの波長範囲における変換効率を向上させることで、高効率な太陽電池が実現することが期待されるとしている。