一定のニーズがあるはずの商品なのに、必要としている人に見つけてもらえない。旬の商品ではないから、販促費を大きく割くことができない。そんな商品も、Facebookを使えばお客さまとの出会いを創出できるかもしれません。
こんにちは、SMMLab ゲストライターの柴です。
この秋、ビクターエンタテインメントとワーナーミュージック・ジャパンが共同で、『邦楽ジュークボックス』と題したプライスオフキャンペーンを行いました。
通常はダウンロード数の少ない過去の楽曲を中心に、iTunes Storeのダウンロード数が約5~6倍、売上ベースでは3~4倍という想定以上の結果を出したという、このキャンペーン。
その成功の陰には、Facebook上でのコラボキャンペーンがあったのです。
今回、そのFacebookキャンペーンを手掛けたビクターエンタテインメントの木村氏にお話をうかがいました。そのなかから、ニーズを引き出し、商品の販売機会につなげるFacebook活用のエッセンスを皆様にお届けします。
木村氏は、旬な楽曲はもちろんのこと、コラボキャンペーンで扱った過去の名曲から、落語やジャズなどのニッチなものまで、Facebookを活用して多様な商品の販売機会を創出しているのです
「プレゼントでファンを集める」から「ファンと楽しむ」キャンペーンへ
――今回のコラボキャンペーンも含め、Facebookを使ったユニークな取り組みを多くされていますね。Facebookページはどのような目的のもと運営されているのですか。
目的は、ビクターエンタテインメントを応援してくれる人を増やすことです。 ですからキャンペーンについても、何かのご縁で参加していただく以上は、楽しい気持ちになってほしいという想いで企画をしています。
――Facebookページ開設当初から、そのような運営を行っていたのですか。
いえ、当時(2012年はじめ)は、まだ会社としてもFacebookの活用自体を模索していたこともあり、リリースやニュースなど、従来のレコード会社の宣伝の延長で発信をしていました。
しかし、ユーザーの反応をうかがいながら運営しているうち、ユーザーの皆さんにとって知りたいことや楽しんでもらえることがあったほうがよい、と考えるようになったのです。
キャンペーンも「ファンが楽しめる」ことに、こだわって作るようになりました。
例えば『山崎あおいの選ぶ「強くなるものグッズ」詰め合わせ』キャンペーン。
これは、彼女が日本カーリング協会公認オフィシャルサポーターに就任したニュースと、2ndシングル「強くなる人」のプロモーションとを掛け合わせた企画です。まだ新人のアーティストなだけに、山崎あおいを知らない人でも楽しめて、興味を持ってもらえるような内容になるよう工夫しました。
▲『山崎あおいの選ぶ「強くなるものグッズ」詰め合わせ』キャンペーンページ。読む側が読みやすく、楽しめるような漫画を載せている。また、メイン画像を雑誌の表紙のようにし、ストーリー性を持たせるなど、随所に工夫が凝らしてある。
URL:http://fbapp.monipla.jp/campaign/detail/6410
山崎あおいの選ぶ「強くなるものグッズ」の詰め合わせを、彼女と一緒に買い出しに行って、北海道まで運んで全日本カーリング選手権大会で優勝を果たした選手の皆さんにプレゼント。それをFacebookで「あのカーリング娘も持っているあおいちゃんグッズを、今度はあなたにも差し上げます!」というかたちで展開したのです。
プレゼントも「自炊に強くなるレシピ本」や「寒さに強くなるカイロ袋」、「接近戦に強くなる香りつき柔軟剤」など、面白い取り合わせになっています。
――ストーリーがあり、思わずクスッとなるようなプレゼントもあり、面白いですね。このようにファンが楽しめるコンテンツを作るようにしてから、結果も変化しましたか。
応募実数が増えただけでなく、ファンからキャンペーンに対するコメントを多くいただくようになりました。アーティストの素の写真を使ったことも好評で、「かわいい」という声がたくさん寄せられました。
正直、以前はプレゼントでファンユーザーを集めるのも善し悪しだと思っていましたが、それも企画次第だと実感しました。
モニプラは設計上の自由度が高いぶん、企画次第でキャンペーンページも面白くできます。ビクターを知らない人にも広く楽しんでもらえればと思っています。
Facebookを使って、普段は見つけてもらいにくい商品にスポットライトをあてる
――ユーザーも楽しんで参加することができ、応募者も増えるというのはお互いハッピーですね。では、大成功だったというワーナーミュージック・ジャパンとのFacebookコラボキャンペーンについて、きっかけをお教えください。
名曲40タイトルを集めた『邦楽ジュークボックス』というiTunes Store上のプライスオフキャンペーン実施に当たり、ワーナーとビクターの担当者がFacebookページでも何か共同でキャンペーンができないかと、声をかけあったのが始まりです。
Facebookでのコラボキャンペーンには以前から興味がありました。
ワーナーさんがFacebookを使って面白い取り組みをされているのも知っていたので、「このチャンス逃さじ」という心境でした。
▲Facebookでのコラボキャンペーン『ワーナー、ビクター共同開催iTunes Cardを当てて名曲をゲットしようキャンペーン!』
概要:「あなたの忘れられない1曲とその理由」を書いて応募した人のなかから、抽選で10名に1,500円分のiTunes Cardをプレゼント
期間:前半戦2013/09/27~2013/10/06、後半戦2013/10/7~2013/10/14
URL:前半戦(ビクター) http://fbapp.monipla.jp/campaign/detail/15322
後半戦(ワーナー) http://fbapp.monipla.jp/campaign/detail/15688
――願ってもないお話だったわけですね。Facebookコラボキャンペーンでは、どのような工夫をされたのですか。
コラボキャンペーンはアーティストの稼働がないので、本当にアイデア勝負でしたね。
いきなりユーザーに「過去の作品を買ってください」と言っても、なかなか振り向いてもらえません。
そこで新入社員二人を登場させ、漫才のようなやりとりを入れることで、その会話自体を楽しんでもらえる内容にしました。
会話の途中には、作品のジャケット画像やiTunes Storeのリンクを入れ「懐かしいな」「聴きたいな」と思ったらすぐ買ってもらえるよう工夫しています。
何年の作品で、当時何枚売れて、といった情報を並べるより、仲良く喧嘩しているなかで作品を紹介したほうが面白いと思ったのです。
構成も、あえてチャット風にすることで、親近感を持ってもらえるようにしています。
▲ハッピを着た新入社員二人が漫才のような会話を繰り広げる。テンポがよく、思わず吹き出してしまうようなシーンも。
――どのような結果が得られましたか。
iTunes Store上で、今まであまりスポットライトの当たる事のなかった旧譜が動きました。
普段は検索しないとたどり着けないような曲を、お客さんに見つけてもらえたのでしょう。 例えば、Facebookのコラボキャンペーンのなかで紹介したBOOWYのファーストアルバムの曲なんかも、すごく動きましたね。
最終的な数値でいうと、ダウンロード数が約5~6倍、売上ベースでは3~4倍(※)という効果が出たのです。※キャンペーン20日間と直前の20日間の比較
もちろん、iTunes Store上でプライスオフキャンペーンをしていることがベースにあっての結果なので、正直、どこからどこまでがFacebookの効果かはわからないですが、想定以上の結果となり大成功でした。
一方Facebookページは、このコラボキャンペーンを行ったことで昔を懐かしむコメントが増え、タイムラインが良い雰囲気になりました。ビクターを応援してくれるような空気を感じましたね。
――数値的な観点からだけでなく、きちんとFacebookページの目的に沿うような結果を出されたということですね。
そうですね。Facebookページでは、会社として売り出したいものをアピールしていくのはもちろんですが、お客さまに色々な音楽を楽しんでもらえるように「こんなのはいかがですか」という提案もしていきたいなと思っています。
ニッチな商品は、いきなり紹介するのではなく「流れ」を作ることが大事
――最近では、落語やジャズといったニッチなものもFacebookを使ってキャンペーンを行っていますね。
はい。落語やジャズのように、あまりお客さまが知らないものや馴染みがないものは、一工夫するようにしています。ただポンと出すのはあまり響かないので、流れを作るのです。
落語は、最近若い女の子が見に行ったりしているという話を聞いたため、女性の新入社員を連れ、まずは自分たちが観に行きました。
そうしたらとても楽しかったので、ユーザーにも興味があるかどうか聞いてみることにしたのです。
▲寄席を鑑賞した新入社員のなごみちゃん
投稿では落語に関心がある人に「いいね!」やコメントなどの反応をしてください、と呼びかけている。
投稿には「いいね!」が650件以上、コメントに至っては100件を超える書き込みがあり、普段より多くの反応が集まりました。落語に詳しい方や熱い方からのメッセージや、「行ってみたいけど敷居が高い」などの意見が沢山あったのです。
これはニーズがあるなということで、生の落語を見てもらおうと寄席のご招待席を用意しキャンペーンを行いました。
――きちんとファンとコミュニケーションしながら進めているのですね。その後、どのような結果や気づきが得られましたか。
キャンペーンには500人くらいの応募がありました。プレゼントが当日見に行くという内容なので、時間と場所に制約があることを考えると、数としても良かったと捉えています。
気づきというと「流れ」をつくるということでしょうか。いつもビクターのページを見てくれているユーザーには「流れ」がわかってもらえます。
事前盛り上げ、キャンペーン告知、事後パブリシティをきちんと投稿するということが大切ですね。
▲キャンペーンのお知らせ投稿。さりげなく落語のDVDにも触れている
――「流れ」をつくってあげると、ニッチなものでもニーズをひき出すことができるのですね。
そうですね。あと、あまり商売商売していないところが良かったのではないでしょうか。
落語という切り口で、皆さんとつながれたらという気持ちで進めています。
――木村さんの企画には、一つひとつに想いやストーリーが感じられますね。最後に、木村さんがFacebookページの運用において大切にしていることをお教えください。
ビクターのことを知ってほしいということです。
更に言うと、なにもビクターの商品に限らず、皆さんが音楽に触れてもらうためのきっかけや接点を作りたいのです。
ことネット上では、音楽業界に対する厳しいご意見をいただくことも多いのですが、そういう状況だからこそ、商売以前に信頼回復をして皆さんに戻ってきてほしいという気持ちがあります。その先に、音楽業界の発展があるのではないかと考えているのです。
これからも「面白い音楽がこんなにいっぱいあるよ」と伝えたり、「音楽聴くって、すごく楽しいよね」ということを広めていきたいですね。
ソーシャルメディアにはその可能性があると信じて、Facebookページの運用に取り組んでいます。
プロフィール
ビクターエンタテインメント株式会社 デジタルビジネス部 デジタルプロモーショングループ
木村 玲(Ryo Kimura)氏
ビクターエンタテインメント株式会社公式サイト:http://www.jvcmusic.co.jp/
Facebookページ「Victor Entertainment,Inc. (ビクター/JVC)」:https://www.facebook.com/jvcmusica
インタビュー後記
今回は、ユーザー自身も気づいていないようなニーズを引き出し、商品の販売機会につなげるエッセンスをうかがうことができました。ユーザーが楽しめるコンテンツを作ること、見つけにくい商品にスポットライトをあてること、ファンに受け入れてもらいやすいような「流れ」を作ることなどです。
一方で、これらのハウツー以上に大切なことに気づかされたインタビューでもありました。それは、運営者ご自身がユーザーとのコミュニケーションを楽しんでいること、そして使命感や想いをもって取り組んでいることです。この2つがあるからこそ、ユーザーと心の通ったコミュニケーションがとれ、キャンペーンも成功しているのだと思います。
ライター紹介
柴 佳織 (Kaori Shiba)
企業のFacebookページのコンサルティングから、解析・運用支援などを行う。また、Facebookマーケティングのライターや講師も務めている。