エンタープライズの大きなトレンドがモバイルだ。スマートフォン、タブレットが代表選手だが、一部ベンダーではすでにウェアラブルへ向けた動きも見られる。エンタープライズのモバイル活用は? これらが生成するビックデータをどうやって活用するのか? 11月半ば、米サンフランシスコで開催されたモバイルのイベント「Open Mobile Summit 2013」で、ビックデータや企業のモバイル活用をテーマとした話を集めた。

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"BYOD"に代表されるように、エンタープライズでのモバイルは従業員のニーズ主導で進んでいる。そのような状況の中でモバイルへ急ぐ企業に対し、エンタープライズ分野に明るいForbesのハイテクジャーナリスト、Dan Woods氏はひとつの警告をした。

エンタープライズモバイルでは「自社にとってモバイルはなにか」を問う必要があるとDan Wood氏

「他のエンタープライズ製品とは異なり、モビリティは製品ではない。成功のためには良い技術を購入するだけでは不十分」とWoods氏。データを収集するメカニズムなど、正しい実装と活用が不可欠だという。「技術は土台に過ぎない。モビリティを正しく導入するには、自社にとってモバイルがどのような役割を果たすのか、どのようなニーズを満たすのかをきちんと理解しておくこと」(Woods氏)。

一方で、HTML5のように容易にスタートできる技術が成熟してきたことは、企業にとっては朗報だ。きちんとした目標を設定した後は、いきなりネイティブのカスタムアプリを作るのではなく、ユーザーの声を探りながらのトライ&エラーを進めることをWoods氏は推奨する。

HTML5なら手軽に始められる。コンテンツの提供、アプリカタログの作成、HTML5で試作を進めていくうちに、「モビリティが自社にとってどんなものなのかがわかる。エンタープライズの文脈では、ちゃんとしたアイディアがあることが大切だ」と述べる。

一歩進んで、モバイル端末が日々生成するデータ量は増えており、"データをどう活用するか"も課題となっている。

モバイルとビックデータをテーマとしたパネルで、パネリストの1人、金融大手Wells Fargoでエンタープライズデータ・分析担当上級副社長のJohn Ahrendt氏は、「顧客は単にモバイルではなく、すべてのチャネルからアクセスしている。これを利用して顧客について360度のビューを得たい」と狙いを語る。金融機関はモバイル時代の前から個人データを収集しており、モバイルは新しいチャネルとなる。

モバイルビックデータのパネル。左からWellsFargoのJohn Ahrendt氏、SAP LabsのRishi Diwan氏、Misfit WearableのRachel Kalmer氏

Ahrendt氏は現在の課題について、「オンラインデータとオフラインデータの統合」「複雑性」を挙げた。モバイルによりプラットフォームとデータの種類がさらに複雑になった。「技術は継続して進化しており、モバイルとデジタル化により、さらにたくさんのデータが生まれている。データが意味を持つために、どうやって統合し活用するか、継続的に探っていく必要がある」(Ahrendt氏)。

また、スポーツチームがファンやサポーターと関係を構築するにあたって、どうやってモバイルやデジタルを活用できるのかを探っているのがSAPだ。SAPといえばBtoBの業務アプリケーションベンダーだが、ここ数年BtoBtoCも強化しており、新設のスポーツ向け事業はその代表例となる。

SAP Labsでバイスプレジデントとしてスポーツ担当プロダクトマネジメントトップを務めるRishi Diwan氏は、Ahrendt氏の「顧客についての360度のビュー」に同意する。スポーツとモバイルの現状として、「試合のスケジュールや結果、選手の情報提供など基本的な機能を持つアプリ公開にとどまっている」と指摘し、ユーザーの属性や嗜好、(チームや選手について)どのような知識を持っているのかをデータから知り、その上で活動を展開する必要がある、と続けた。それを支援するものとして、SAPは現在ファンを識別する"ファン・アイデンティティプラットフォーム"技術をプッシュしているという。

これらモバイルの流れの先には、ウェアラブルの時代が迫っている。リスト型のアクティビティモニター「SHINE」などを開発するMisfit Wearableでデータサイエンティストを務めるRachel Kalmer氏は、腕やベルトに合計20以上ものウェアラブルデバイスを常時装着し、自身のデータを収集している。自らが実験台となりウェアラブル時代の可能性を探っているKalmer氏は、体験を踏まえていくつかの課題を挙げた。

Rachel Kalmer氏は両腕やベルトにウェアラブル端末を装着して自らのデータを収集している

1つ目は、携帯電話時代から長年の課題である「バッテリ持続時間」だ。「(バッテリ寿命により)継続的に利用してデータ収集することができない。リアルタイムでのインタラクションを妨げる」とKalmer氏。2つ目は、「ビジネスモデルの欠如」だ。「どうやってマネタイズするか、どんなサービスの可能性があるのか」と問いかける。サービス側から収益を得るモデルができれば、端末側は低コストで提供できるが、サービスの可能性がわからないので端末の価格設定も難しいと実情を打ち明ける。

Kalmer氏は自身が装着したデバイスについても、「それぞれ別のアプリ、別のウェブサイトにばらばらにログインする必要がある」と問題提起する。さまざまなデータソースやプラットフォームの接続に向けた動きはまだ少ないようだ。将来的に、APIを公開し、端末間の連携が進むことが理想とも展望する。

ビックデータそのものについては、「データを持つだけではダメ。データ収集はよい出発点だが、アクションが必要。そのためのツールを考える必要がある」と述べる。

Wells FargoのAhrendt氏は同意し、「ビックデータトレンドによりデータを収集し保存するコストが下がった。また、これらの作業をこれまで効率よく行えるようになった。潜在性は大きいが、活用はこれから」と述べた。同社はビックデータ活用の初期成果として、クレジットカードの詐欺行為を予防できる125のパターンを割り出したという。アカウント所有者の行動に対してパターン認識技術を利用することで、"不正利用が起こる1日前"に防ぐことも可能という。

「確かにビックデータはハイプだ。だが活用しない場合は損失も大きい」とAhrendt氏は述べた。