アイ・ティ・アールは12月3日、13回目となる「IT投資動向調査2014」を発表し、その概要を説明した。今回の調査は、ITRが2013年10月16日から10月31日にかけて実施したもので、ITRの顧客企業や主催セミナーへの出席者、ならびにWeb調査の独自パネルメンバーのうち、国内企業の情報システム系および経営企画系部門の役職者3,000名に対して、アンケート用紙による記入もしくはWeb経由で回答を受け付けた。その結果、955人から有効な回答を得た。
アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト 内山悟志氏は、「ITはこの20年で経営・事業・業務にとって不可欠にインフラとして確実に定着した一方、企業情報システムの重要性の認識で企業間格差が生じている。また、ビジネスに直接的に貢献したいが、日々の運用や保守に追われているというギャップが生まれている」と挨拶。
アイ・ティ・アール シニア・アナリスト 舘野真人氏は、今回の調査を総括し、「IT投資は、リーマンショック以来の高い成長で、久々に回復した印象だ。アベノミクス効果が出ている。自社のビジネス対する現状認識では、6割以上が『好調』と答えており、そのあたりも影響している。IT投資が増加した企業が30%を越えたのは2008年以来で、2005年のレベルに戻りつつある。過去5年でもっともポジティブな予想だ。自社のビジネスの好不調がIT投資動向にリンクしている。ただ、消費増税に対する懸念もあり、手放しで喜べない」と述べた。
2013年度(2013年4月~2014年3月)のIT予算は、増額(20%以上の増加と20%未満の増加の合計)と回答した企業の割合が31.7%となり、2012年度(25.5%)を6ポイント強上回った。増額した企業が30%を超えたのは、2008年度以来5年ぶりだという。減額(20%以上の減少と20%未満の減少の合計)と回答した企業の割合も、前年度を大きく下回り、全体的に前向きな投資が行われたことがうかがえる。
なお、このIT予算の増減傾向を指数化した「IT投資指数」で見ると、2013年度の実績値は前年調査の予想を大きく上回る「2.10」となり、リーマンショック前の2007年度以来の2ポイント台となった。2014年度の予想値は2013年度の実績値を下回ったものの、過去5年では最もポジティブな値となった。
今年の調査では、自社のビジネスの現状を好調と認識する企業と不調と認識する企業との間で、IT投資意欲やIT戦略の方向性に違いがあることが浮き彫りとなったという。
まず、2013年度のIT支出から人件費を除いたIT投資額を、「定常費用(既存システムの維持、若干の機能拡張など)」と「戦略投資(新規システム構築、大規模なリプレースなど)」の2つに分け、両者の割合を確認した結果では、自社を好調と認識する度合いの高い企業ほど、戦略投資の比率が高い傾向が示された。
ただ、舘野氏は気になるポイントとして、定常費用が増えている点を指摘。定常費用は2010年以降抑えられる傾向だったが、2013年は一転増えており、戦略投資の数字が過去最低になったという。
今年は新たに、年間IT支出のうち、どの程度の割合をIT部門が決定しているか(決裁権を有しているか)を調査したが、企業によりバラバラだという。ただ、IT部門が決定権を多くもっている企業は、定常費用に予算を多く振り分ける傾向があり、舘野氏は戦略投資を増やすためには、IT部門の決定権を低く抑える必要があるとした。
海外投資は、昨年に続き、ASEANや中国などアジア向け投資が圧倒的に多い。
今回の調査では、情報セキュリティに対する設問を新たに追加し、支出の割合やセキュリティ・インシデントの重視度合い、主要なセキュリティ施策の実施状況についても分析を行った。2014年度に向けて重視するセキュリティ・インシデントでは、重要度指数で首位となったのは「人為ミスによる情報漏洩・消失」だったが、2位、3位はいずれも「外部攻撃」に関わるインシデントが入り、国際的に頻発する標的型サイバー攻撃に対する警戒感が高いことが明らかになった。これまでは内部統制に対する投資が多かったが、外部攻撃を重視する警戒感が強まっているという。
特に、「金融・保険」「情報通信」「公共」といった業種では、「外部攻撃による情報窃取」に対する懸念が大きくなっているという。
舘野氏は、「セキュリティ対策では、守るべき情報が決まっていないのが問題で、これからの大きな課題になる」と述べた。
また、ITに関する主要18の戦略テーマの中から、重要性が高いと認識するものを1位から3位まで回答してもらった結果では、好調と認識する企業では「売上増大への直接的な貢献」や「顧客サービスの質的な向上」といったビジネス指向のキーワードが上位にランクされたのに対し、不調と認識する企業では、「業務コストの削減」「ITコストの削減」が重視されている。 同氏は、「好調な会社と不調な会社でIT戦略上の違いが出てきている」と述べた。
今年は、「顧客サービスの向上」が上位に来ているのが特徴で、外向けのサービスに目が向き始めている。また、ワークスタイルやビジネスイノベーションの創出も順位があがっている。
2014年度に向けて最重要視するIT課題は、「IT基盤の統合・再構築」が4年連続で最上位となり、2位も前年同様「ビジネスプロセスの可視化・最適化」だった。順位には大きな変化は見られないが、上位と下位の重要度指数の差は縮まっており、企業の重点課題が多様化しつつあることがうかがえるという。
ビッグデータやクラウドなど、新しいキーワードを重視している傾向があり、バズワードの時代を過ぎ、実施するフェーズに入って来ているという。 また、製品/サービスの投資動向では、タブレット・スマートフォンのモバイル系とサーバ仮想化が依然として多い。
なお、本調査結果の全結果および分析は、「国内IT投資動向調査報告書2014」としてITRのWebサイトを通じて先行予約販売を開始する。なお、同レポートの発刊は12月中旬を予定している。定価は12万6,000円だが、先行予約の場合は9万9,960円となる。