NECは11月20日、ソフトウェア無線技術を利用した新たな陸上自衛隊向け「野外通信システム」の納入を開始したと発表したが、同日、実際の製品とその生産設備がある府中事業場をプレス向けに公開した。
今回の「野外通信システム」はソフトウェア無線技術を使用することで、無線機の低価格化と軽量化を実現。同社は今後、この技術を民生品にも応用していく予定だ。
「野外通信システム」の生産設備は、東京都府中市の同社府中事業場内にある。府中事業場の敷地は21万9,000平方メートル(東京ドームの4.5個分)という広大なもので、関係会社あわせて約9,000人が働いている。野外通信システムとしては、生産ラインのほか、防水試験場、振動試験場、電波暗室が備えられている。
今回の「野外通信システム」は、NECが防衛省から受注した平成23年度予算329億円の一部で、実際の納入は、今年の3月~9月に行われた。
NEC 防衛ネットワークシステム事業部長 受川裕氏によれば、ソフトウェア無線技術を利用した製品としては世界初だという。
ソフトウェア無線技術は、NECが米国と共同で開発したもので、これに携帯通信などの独自の拡張を加え、2012年から量産化を開始した。
受川氏によれば、ソフトウェア化には低コスト、小型化のほか、ソフトアップデートによる機能強化が行えるというメリットもあるという。
たとえば、無線通信ソフトウェアには、防災無線や衛星通信用も用意され、モードを切り替えることで、自治体の防災無線との交信も可能だ。
野外通信システムでは、ソフトウェア無線技術のほかにも、自律分散型ネットワーク、フルIP・ネットワークQoS技術が使われている。
自律分散型ネットワークでは、マルチメディア対応の高速伝送回線、ネットワーク自動構築と自動加入、自律ネットワーク構成、回線断時に自動迂回を行う自己修復、ウェポン系の低遅延のリアルタイム通信、高速な経路切り替えの移動間通信などの特徴がある。
フルIP・ネットワークQoS技術は、通常は通信の遅延時間や伝送容量を保証できないが、QoSにより通信経路を最適に選択する技術や優先処理する技術などにより、状態が変化して遅延時間の保証や伝送容量の確保を可能にするもの。
車載用の無線機は従来に比べ半分の体積に小型化され、後部座席を占有することなく、タイヤハウス上部スペースを利用した設置が可能になった。また、LAN端子も搭載され、Androidの情報通信端末を接続し、位置把握、メール、ナビゲーション、警告情報サービスを利用できる。
これら4つのサービスは共通サービスとして、隊員が背負って運ぶマンパック型やハンドヘルド型の無線機でも利用できる。
同社では、ソフトウェア無線技術を民生用に転用することも考えており、国内では緊急モバイル、列車無線、消防無線、海外では緊急モバイル用として展開を図っていくという。
パブリックビジネスユニット 理事 伊藤康弘氏は「NECの事業領域はパブリック、エンタープライズ、テレコムキャリア、スマートユニットの4つの部門にわかれるが、防衛システムは、公共事業者向けのパブリックビジネスユニットに含まれる。平成24年度のパブリックユニットの売上は6,027億円で全社売り上げ比率は20%となる。防衛事業に取り組んでい意義は、国家の安全の保証に対して民間の立場から貢献する気概をもって行っていることだ」と述べた。