今日、低消費電力マイクロコントローラ(マイコン:MCU)は黄金期を迎えています。五指に余るメーカーが、マイクロコントローラ回路の省電力化に有効な先進機能を備えたMCUを提供しています。しかし、これらの機能のすべてを試してみる事は困難です。多くの場合、得られる効果も不明です。簡単に大きな効果が得られる機能はどれか。苦労してもまったく効果が小さい機能はどれか。そして、最も重要な疑問は「製品の性能に対してどのように影響するのか」 という事でしょう。今日のMCUが備える多くの省電力機能は、処理性能に大きく影響します。

これらの懸念を解消する1つの方法は、電流計測機能を内蔵した統合開発環境(IDE)を使う事です。これにより、当て推量に頼らずに省電力機能を組み込む事ができます。従来は、電流計が使われました。しかし、電流計ではコード実行に直結した消費電流をリアルタイムに計測する事はできません。

電流計測機能を内蔵したIDEを使う事で、特定の機能が消費電力と性能に及ぼす影響を即座に知る事ができ、効果のトレードオフを素早く把握できます。

以下では、Microchipの「PIC24FJ128GA310マイクロコントローラ」を使った事例を紹介します。このMCUは「アイドル」と呼ぶ省電力モードを備えています。アイドル中は、CPUは停止しますが周辺モジュールは動作を続け、割り込みが発生するとCPUは復帰します。このため、アイドルの使用は消費電力と性能のトレードオフを伴います。アイドルを使うと消費電流は43μA/MHzまで減少 (73%減少)しますが、CPUはスリープするためコードを実行できません。

間接的な計測しかできない電流計の代わりに、「REAL ICE Power Monitor」を備えた「MPLAB IDE」などを使うと、消費電力とアプリケーション性能への影響を直接計測できます。例えば、UART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)を使ったデータ転送にアイドル機能を使ってリアルタイム消費電力計測機能を備えたIDEで計測すると、ループ中(UART送信が終了するまでの待機中)にアイドルに移行する事で、性能にほとんど影響する事なく消費電流を削減できる事が分かります。

内蔵計測機能を使うと、省電力化を周到に進める事ができます。目標消費電力を最初に決めたら、省電力モードの適用シナリオを組み立てる事ができます。次に、消費電力計測機能を備えたIDEを使ってそれらのシナリオで実験し、省電力効果を検証します。さらに、このツールからはリアルタイム結果が得られるため、コードの書き方がアプリケーションに及ぼす影響も理解できます。

低消費電力マイクロコントローラは黄金期を迎えましたが、適切なツールを使う事が必要です。開発に着手したら、IDEの内蔵計測機能を使って、当て推量に頼らずに低消費電力機能を組み込んでください。最新のMCUが備える先進機能を実装する事で驚くほどの省電力化を達成できますが、性能に対する影響にも注意する必要があります。そのような作業は、IDEが内蔵する電流計測機能を使う事で、容易かつリアルタイムに実施できます。

著者プロフィール

Jason Tollefson
Microchip Technology
Sr. Product Marketing Manager
MCU16 Division
低消費電力マイクロコントローラ製品を専門に担当。職責には、MicrochipのPIC24およびdsPIC製品ラインの新製品の決定と低消費電力マーケティングが含まれている。
ミネソタ大学の技術研究所で電気工学の学士号を取得した後、フェニックス大学でMBAを取得。現在の役職就任以前は、設計/試験/生産技術を含む新製品の開発業務に8年間携わってきた。