京都電子計算株式会社(KIP)は、1964年に京都新聞社の全額出資で設立された企業で、ソフト開発、パッケージシステムの提供、導入・運用支援サービスなどを手掛けている。同社は情報処理センターとしてこれまで数多くの大学入試業務を支援しており、入試願書受付OCRシステム『G-entry』も提供している。
「『G-entry』は、最近増えつつある、ひとつの大学で複数の学部を受験できる複願に対応した単票複願方式の入試願書受付OCRシステムです。現在は地元京都のほか、関東や中国、九州の学校にも採用されるなど、利用は全国の大学に広がりつつあります。もっとも大きな大学では、数万人規模の入学願書を処理しています」と、『G-entry』のプロジェクトマネージャーを務める京都電子計算株式会社 ソリューション事業部 システム部 開発1グループ グループマネージャー 森田智久氏は説明する。
入学願書処理の工数を大幅に削減
このシステムは、キヤノン製ドキュメントスキャナーでカラー顔写真付志願票をイメージとして読み取り、手書きの氏名や住所、チェックマークなどの記述・マーク部を日本語OCRエンジン「Rosetta-Stone-Components」(キヤノン製)により認識し、データベースに登録する。
登録されたデータは受験票の発行や受験当日に受験生と照合する『写真照合シート』、『志願者一覧表』の作成に使われるほか、大学が利用している基幹システム向けの連携データとしても活用される。以前の大学入試では、受験生自身が手書きした受験票に受験番号が付加されて返信されるスタイルだったが、このシステムを利用すれば、住所や氏名などはデータベース情報をもとに印刷されて送付されるため、受験生のサービス向上にもつながっている。
『G-entry』はOCRによりデータ入力作業の工数を大幅に削減するほか、複数学部受験の場合に受けられる学部と受けられない学部のチェックなども行っており、人的作業によるミスも防ぐことができる。ユーザーからは、受験番号の自動採番機能も喜ばれているという。
「学校によっては、入学願書の写真を学生証の写真に転用しています。試験当日の受験者の顔写真照合もシステムから出力される『写真照合シート』を利用できますので、手作業に比べてかなり工数を削減できると思います。また、データベース化しているため、志願者からの問い合わせに対してもいちいち元本を探すことなく、登録されているイメージデータを使って迅速に答えることができます」と、京都電子計算株式会社 ソリューション事業部 システム部 開発1グループ リーダー 鬼村雅司氏は、システム化のメリットを語った。
『CapturePerfect SDK』で煩雑な設定作業を自動化
同社が『G-entry』を開発したのは2002年のことだ。それまでは他社製のエントリーシステムを利用していたが徐々に規模が拡張し、必要とされる機能も多様化してきたことから、自社開発することになったという。
新たなシステムを開発するにあたって、同社はまず、システムで利用するスキャナーの選定を行った。数社をリストアップし、実際にメーカーからの貸出機を使った読み取りテストも実施したという。そして、スキャナー本体およびOCRエンジン性能からキヤノン製スキャナーを採用した。
「『G-entry』は業務の性格上止めることができないシステムですので、スキャナーを選択するにあたっては基本性能もさることながら、耐久性や信頼性も重視しました。また、キヤノンさんのサポート体制が他社さんよりも充実していた点も評価しました」(鬼村氏)
そのほか、システムでは自動化も大きなポイントとなっている。スキャナーでドキュメントを読み取る際には、用紙サイズや解像度、文字の向きなどの事前設定が必要だ。これらの設定を間違えるとOCRの認識率が下がるばかりでなく、設定ミスによる再読み取りなど、ユーザーの作業効率にも大きく影響する。そこで同社は、これらを解決するため、キヤノンが提供する開発ツール『CapturePerfect SDK』を利用してシステムを開発した。
『CapturePerfect SDK』は、キヤノンのスキャナーDRシリーズに標準添付されている、PCに画像を取り込むためのアプリケーション「CapturePerfect」の各種設定を、プログラム側でコントロール可能にする開発ツールだ。これを利用することで、ユーザーは読み取りを行いたいドキュメントの種類を画面から選択するだけで、最適なスキャン設定を自動で行うことができる。
「『G-entry』では、大学ごとに異なる入学願書の定義体をあらかじめ設定しており、メニュー画面から読み込みボタンが押されると、指定された願書に合わせたスキャナーの各種パラメータを『CapturePerfect SDK』を使ってスキャナーにセットし、読み込み命令を発行しています」と、実際の開発を担当する京都電子計算株式会社 ソリューション事業部 システム部 開発1グループ 世古茂樹氏は説明した。
実は、同社のキヤノン製開発ツールの利用は長い。
「弊社は『CapturePerfect SDK』になる以前の製品から利用しています。他社の開発ツールは利用できるアプリケーションが限定されているなどの制約がありますが、『CapturePerfect SDK』は、Microsoft .NETやVBから読み出し制御ができるので、汎用性が高く助かっています」(世古氏)
このツールでは、読み込む入学願書の項目ごとに属性を設定することができる。これにより、OCRの認識率を高めることができ、数字やアルファベットの場合は認識率が99%に達するという。
入学願書は手書きのことが多いが、枠から多少はみ出る程度であれば、認識率にはほとんど影響しないという。システムを納入した大学の中には数万人規模の願書を扱っている学校もあるが、わずか4台のキヤノン製スキャナーで処理しているという。
また、『CapturePerfect SDK』で開発したアプリケーションは、スキャナーをバージョンアップしても、過去のプログラムを流用して利用できる点も特徴だ。同社ではこれまで3回の機種変更を行ったが、既存のプログラムを生かしながら修正を加え利用している。
「『CapturePerfect SDK』の実行環境は、スキャナーを購入すると標準で付いてきますので、お客様に別途購入いただく必要がない点は助かっています。使い方も簡単で、開発者がSDKの技術を習得する際も改めて教育することなく、マニュアルと製品に付属する無償サポートを利用することで対応できました」(世古氏)
システムの運用は順調
『G-entry』の販売を開始してすでに10年以上経過するが、システムの運用は順調だ。
「キヤノンさんのスキャナーはしっかりと安定しており、デザイン的にも優れていると思います。原稿の傾き補正なども優秀で、イメージ原稿の作成では標準のまま利用しており、特に設定を変える必要もありません。入学願書は写真を貼るためののりがはみ出て、2枚の原稿がくっついてしまうことがありますが、重送検知によりエラーを防いでくれます。実際、目の前で検知されたときは感動しました。これまで大きなトラブルもなく、搬送中に用紙が破れたというような報告もありません。耐久性や信頼性の面でも、消耗部品交換がキヤノンのサポートの方を呼ぶことなく、ユーザーさん自身で行えるので、すぐに再稼動できる点も助かっています」(鬼村氏)
同社ではこれまでの経験を生かし、今後は検定業務や大学向けサービスをクラウド上で展開することや、データエントリーを同社で行い、データだけを顧客に提供するBPO(Business Process Outsourcing)サービスの提供も考えている。
「イメージを作るだけであれば他社でもできますが、弊社は入試事業を30年ほどやっており、入試事務を熟知しています。お客様のニーズを的確に捉えるという自信はあります」と森田氏は語った。
今後新たなビジネスを展開する同社にとって、『CapturePerfect SDK』と『G-entry』のスキャナー+OCRシステムの構築経験は、大きなアドバンテージとなることだろう。