東京都医学総合研究所(東京都医学研)は11月7日、シンセラ・テクノロジーズ、コニカミノルタ、アドテック、北海道大学(北大)、熊本大学との産官学医連携により、従来のイムノクロマト法と比較して、高病原性鳥インフルエンザウイルス「H5N1」を簡易に50倍以上、また季節性では100倍以上の高感度で検出できる「蛍光イムノクロマトキット」およびその測定機器の開発に成功したと発表した。

成果は、東京都医学研の芝崎太参事研究員、北大大学院 獣医学研究科の喜田宏 特任教授(人獣共通感染症リサーチセンター センター統括兼任)、熊本大大学院 生命科学研究部 感染免疫学講座・免疫学分野の阪口薫雄 教授らの共同研究チームによるもの。研究は東京都インフルエンザ特別研究として行われ、詳細な内容は、米国東部時間11月6日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

A型やB型インフルエンザウイルスによる季節性インフルエンザは毎年流行し、さらには2009年に発生したパンデミック(世界的流行)を起こしたブタ由来新型H1N1ウイルスに加え、家禽や渡り鳥の間で流行しているH5N1およびH5N2鳥インフルエンザウイルス、さらには201年に中国でヒトに感染したH7N9ウイルスなど、さまざまなインフルエンザが虎視眈々と流行することを狙っている。中でもH7N9ウイルスについては、ヒトからヒトに感染してパンデミックを起こす可能性も指摘されており、警戒が必要な状況だ。

またH5N1は、現在、全世界で600名以上の感染が報告されており、流行とまではいかないもののその致死率は60%近いことが報告がなされている。今後パンデミックを引き起こす可能性も危惧されており、そうなった時の被害は甚大で危険なため、H5亜型のインフルエンザウイルスすべてを高感度で検出可能な簡易検査法の確立が望まれていたのである。

東京都は平成20(2008)年よりこれらの危険なインフルエンザへの対応として、診断法、治療薬の開発を進めてきた。今回、従来のイムノクロマト法と比較して50倍以上の高感度でH5亜型ウイルスを検出できる方法とその検出機器の開発に成功した。従来の金コロイドを使用する方法に取って代わる、蛍光色素を抗体に結合させた「蛍光イムノクロマト法」が独自開発され、さらにこの蛍光色素を高感度に測定できる小型検出機器も開発され、高感度化に成功した形だ(画像1・2)。

画像1。イムノクロマトチップ

画像2。蛍光イムノクロマト測定装置

この方法は鼻咽頭拭い液を用いて、従来法と同じ手順、同じ時間内で高感度な測定を行える。H5亜型ウイルスには、さまざまな抗原性の変異株があり、これまで開発された抗体では一部のウイルスにしか反応せず、ウイルス株によって検出できないリスクがあった。

今回、熊本大の阪口教授との共同研究にて開発された抗H5HA抗体は、広範囲の抗原性のウイルスと高親和性で結合し、北大の喜田教授との共同研究にて行われた多数のH5亜型ウイルス自然分離株を用いた検定で、すべてのH5亜型インフルエンザウイルスを検出できることが確認されている。これにより、今後発生する可能性があるH5亜型ウイルス感染症すべての診断が可能となったというわけだ。

今回開発された高感度蛍光イムノクロマト法とその測定機器は、H5亜型ウイルスだけでなく、抗体が利用可能であれば、最近問題になっているH7N9ウイルス感染症、さらにはがん、生活習慣病など幅広い疾患の簡易診断への応用が期待されているという。