国立天文台は11月10日、微光天体分光撮像装置「FOCAS(Faint Object Camera and Spectrograph)」を用いて、「すばる望遠鏡が11月後半からの増光が期待される「アイソン彗星(C/2012S1)」と、豪州の著明なコメット・ハンターであるテリー・ラブジョイ氏が2013年9月に発見したばかりの新彗星「ラブジョイ彗星(C/2013R1)」の可視光での撮影に成功したことをその画像と共に発表した。

すばる望遠鏡は、10月19日・21日の明け方に、冷却中間赤外線分光撮像装置「COMICS(Cooled Mid Infrared Camera and Spectrometer)」を用いて、波長5~40μmの中間赤外線領域でアイソン彗星の撮影に成功しているが、今回は可視光での撮影に成功した形だ。

すばる望遠鏡に搭載されたFOCASは、アイソン彗星の姿をハワイ時間2013年10月31日明け方(日本時間2013年11月1日0時8分頃)にとらえることに成功。5秒間の露出だったが、核の周辺に輝く構造の「コマ」や、そこから延びる尾が鮮明に写し出された。アイソン彗星は、観測当時、地球から約1.9億km、太陽から1.5億kmの距離にいた。画像1が、FOCASで撮影されたアイソン彗星の核周辺。波長550nm(Vバンド)で撮影された。視野の大きさはおよそ6×3分角である(1分角は1度の60分の1)。

画像1。今回撮影されたアイソン彗星の核周辺。(c) 国立天文台、撮影・データ解析:八木雅文氏(国立天文台)

なお、アイソン彗星の観測に関しては、上でリンクを張っているCOMICSを用いてすばる望遠鏡が中間赤外線で撮影した際の記事でも紹介しているので、ご覧いただきたい。

そして、ちょうど時を同じくして増光している彗星がもうひとつある。それがラブジョイ彗星だ。2011年に太陽に大接近し、消滅すると予想されながらも無事通過し、その雄大な尾とともに知られた「ラブジョイ彗星(C/2011 W3)」とはまた別の彗星で、コメット・ハンターのラブジョイ氏が今年の9月に発見したばかりの彗星だ。日本やハワイではこの時期、未明の東の空で見ることが可能である(ただし、肉眼で見るのは難しい)。

このラブジョイ彗星もFOCASを用いて撮影が行われ、広域でとらえられたのが画像2で、その青枠の核周辺を拡大したのが画像2の左下および画像3だ。画像3の核周辺に見られるX字状の複雑な構造が特徴的である。これは核から吹き出すダストのジェットであると考えられるという。撮影時刻は、ハワイ時間2013年10月31日未明(日本時間2013年10月31日20時54分頃)。波長550nm(Vバンド)、5秒露出。視野の大きさはおよそ6×3分角とアイソン彗星と同条件。画像3の核周辺の画像は階調が調整されており、構造が見やすくなっている。

画像2(左):ラブジョイ彗星の広域画像。 画像3(右):同彗星の核周辺の画像。(c) 国立天文台、撮影・データ解析:八木雅文氏(国立天文台)

観測・データ解析を担当した国立天文台の八木雅文氏は「この晩は天気が悪く、ドームを開けたり閉めたりしながら雲の合間を縫っての観測でしたが、話題の彗星のデータも得られ、美しい画像を多くの方と共有することができて良かったです」とコメントしている。