M2M(マシン間通信)に向けてさまざまな動きが見られる。Google Glassに代表されるように端末側のイノベーションもあれば、それを支えるシステム側でも通信インフラ企業や業務アプリケーションベンダーがソリューション構築を始めている。
通信機器大手の米Cisco Systemsもその例外ではない。モノのインターネット(Internet of Things)はCisco風にいうと「Internet of Everything」。CiscoのCTOであるPadmassree Warrior氏が10月末、アイルランドで開催されたWebベンチャーイベント「Web Summit 2013」でCiscoの考えるInternet of Everything時代のイノベーション、そしてエンタープライズについて語った。
あらゆる業界を変えるインターネット――まだ0.6%しか接続されていない
Warrior氏は冒頭、「インターネットとモバイルをはじめとした技術イノベーションが、エンターテインメント、メディア、教育、ヘルスケア、金融、運輸などさまざまな業界をラディカルに変えている。技術により新しいビジネスモデルと新しいビジネスチャンスがうまれている」と全体の流れを説明した。
最初に取り上げた技術トレンドは、これまでのクライアント/サーバーからモバイル/クラウドへのシフトだ。「Ciscoでは2020年に500億台以上がインターネットに接続すると予想している」とWarrior氏、「接続できる可能性がある端末のうち、実現しているのはわずか0.6%。99.4%はまだ接続されていない」と続ける。つまり我々は、既にある製品カテゴリが接続され、同時に新しいカテゴリが登場するのを目の当たりにすることになりそうだ。
現在はコンシューマーが牽引しているモバイル/クラウドだが、トレンドは確実にエンタープライズにも押し寄せるとも述べる。「これは大きなチャンスだ――エンタープライズ分野でイノベーションできる」(Warrior氏)。すでに企業におけるSaaSモデルの受け入れなど、その傾向はすでに見られる。
イノベーションはマルチドメインに
Warrior氏は次に、このトレンドによりイノベーションがどう変わるのかについて話した。これまでの流れとしては、産業革命の後、1870年から100年ほどのイノベーションを「閉鎖されたイノベーション」、その後1970年~80年を「包括的なイノベーション」、2000年頃から現在までを「オープンイノベーション」と同氏は呼ぶ。
「閉鎖されたイノベーション」は、電球を発明し、General Electric(GE)を創業したThomas Edison氏に始まる。IBMやAT&Tなどがイノベーションのためのラボを持ち、そこで研究者は技術イノベーションをし、それをどうやって商業化するかを考えた。だがイノベーションに参加できる人は一部に限られていたのがこの時代だ。
続く「包括的なイノベーション」は、カンバン方式など製造の効率化を追求したトヨタ自動車ら日本企業が牽引した。締めくくりは、多数が関与して誕生したインターネットとその商業化だ。
現在まで続くイノベーションモデルである「オープンイノベーション」は、LinuxやAndroidが成功例として挙げられる。不特定多数の人々が継続してアイディアを出し、バリューを加え、商業化するオープンソースプロジェクトが技術進展を加速した。
では「オープンイノベーション」の次のイノベーションモデルはどのようなものになるのだろうか? Ciscoの予想は、「マルチドメイン・イノベーション」だ。
「(イノベーションの)フォーカスはすでに、機能からユーザビリティやユーザー体験へとシフトしている」とWarrior氏。ハードウェア開発、ソフトウェア開発、アプリケーション、分析、ユーザー体験、UIなどを組み合わせる必要があり、これらを綿密に計算したオーケストレーションが重要になる。これはコンシューマーだけでなく、エンタープライズの業務アプリケーションでも進み始めたという。
IoTの課題は、データからどうやって「価値」を得るのか?
Warrior氏は次に、"次のBig Thing"という「Internet of Everything」について解説した。
成長国を中心にインターネットが普及してから10年以上が経過し、インターネットが少しずつ産業、生活、社会、経済などを変えている。
最初の波は「コネクションのデジタル化」、ここでの例は電子メールとなる。次の波は「トランザクション(取引)のデジタル化」で、Eコマースが例だ。3番目の波は「インタラクションのデジタル化」で、ソーシャルメディアが人のやり取りを変えた。
そして、モノのインターネット、つまり「Internet of Everything」の到来となる。M2M、ビックデータ、マシンラーニングなどさまざまな技術が実現する世界で、すでに、ウェーラブルコンピューター、コネクテッドカーなど実装が始まっている。重要なことは、「単なるマシン間通信ではなく、人、プロセス、データを結びつける必要がある。どうやってデータをリアルタイムで分析してバリューを得るかが大切だ」と述べる。
Ciscoの調べでは、Internet of Thingsの積極的な活用により、2013年から2022年の10年間に14兆4000億ドルの経済価値が生まれる予想という。その内訳は、資産の活用が2兆5000億ドル、従業員の生産性が2兆5000億ドル、サプライチェーンや物流が2兆7000億ドル、顧客体験が3兆7000億ドル、イノベーションが3兆ドルとなる。「企業の収益性を2割成長できるポテンシャルがある」とも言う。Ciscoは先に、Internet of Thingsの専門事業を立ち上げを発表している。
Fortune100企業のうち20年生き残るのは3社に1社!?
このような変化の時代を、我々は経験していることになる。Warrior氏は中でも、「大企業は特に、変化する世界に対応していかなければならない」と警告する。20年前に「Fortune 100」に入っていた企業のうち、現在生き残っているのはわずか3分の1だという。つまり、3分の2は消えてしまったことになる。「変化の速度が加速している。企業はどうやって生き残るか、自社がどのポジションにあり、どこを目指すのか見つけ出す必要がある」と助言する。
新しい時代のリーダー像にも触れた。必要なスキルセットとしては、「影響力」「コミュニティの構築」「確実さ」「共有」「コラボレーション」の5つを上げ、特に共有とコラボレーションを強調した。
Ciscoのイノベーション戦略は、社内開発、買収、提携、それにこれらの統合の4つが柱となる。「Ciscoはこれまで約170社を買収した。買収により構成された企業だ。提携では、小規模なベンチャー企業を含めさまざまな提携を行っている」とWarrior氏。スタートアップに20億ドルを投資しており、「独自のイノベーションを戦略として大切にしている」とも述べた。