生理学研究所(生理研:NIPS)は11月8日、自由行動下のサルの大脳皮質の神経細胞と脊髄とを人工的に接続することが可能な3.5cm×5.5cmの「神経接続装置」を開発し、実際に大脳皮質と脊髄間の繋がり(シナプス結合)を強化することに成功したと発表した。
同成果は、同研究所の西村幸男 准教授と米国ワシントン大学らによるもの。詳細は神経科学専門誌「NEURON」オンライン速報版に掲載される予定だという。
脊髄損傷や脳梗塞による運動麻痺患者の願いは、「失った機能である自分で自分の身体を思い通りに動かせるようになりたい」ということだが、従来のリハビリテーション法・運動補助装置では一度失った機能を回復させることは困難だった。今回開発された神経接続装置は、大脳皮質の神経活動を記録し、それを電気刺激に変換し、0.015秒の遅延時間(刺激のタイミング)をおいて、脊髄に対して電気刺激を行うもので、実験ではサルが神経接続装置を接続した状態で、ご飯を食べたり、遊んだり、寝たり、自由に日常を変わらず過ごす様子が観察されたという。
また、その日の翌日、大脳皮質と脊髄間のシナプス結合の強さは、人工神経接続前と比較して、より強くなっていることも確認された。
なお、シナプス結合の強さは、刺激のタイミングが重要であり、0.012~0.025秒だと強化されたが、0.050秒以上ではシナプス結合の強さに変化が見られなかったほか、刺激のタイミングを短くしたところシナプス結合の強さが減弱されることも確認されたと研究グループでは説明しており、西村准教授は、この技術は、在宅で利用可能な脊髄損傷や脳梗塞後の運動・感覚機能の機能再建・リハビリテーションに役立つことが期待されるほか、シナプス結合は学習や記憶を司り、脳・脊髄の至る所にありることから、学習能力や記憶を強化することにも応用可能かもしれないとコメントしている。