11月1日に開催された「ソーシャルTVカンファレンス 2013 <視聴者からユーザーへ>」では、テレビ局などのメディア業界をはじめ、アプリ開発などのIT業界、スポンサー企業やシンクタンクなど、様々な領域からのスピーカーによって、テレビメディアの未来について熱い議論が交わされました。
今回はこのカンファレンスの様子を、主催の『ソーシャルテレビ推進会議』メンバーであり、公式ブログ【ソーシャルテレビラボ】の寄稿者でもある杉本 穂高氏のブログからご紹介します。
※本記事は「Film Goes With Net~映像ビジネスの未来を模索する」からの寄稿記事です
「ソーシャルTVカンファレンス 2013」のキーノートには、ソーシャルでインタラクティブな視聴体験をもたらす新しいプラットフォームとして注目を集める、「zeebox」の共同創業者であり最高技術責任者であるアンソニー・ローズ氏が登場しました。
アンソニー・ローズ氏は、イギリス出身、2007年から2010年にBBC在籍当時、BBC iPlayerの開発を担当し、BBC在籍以前には音楽配信ストア等の開発に関わっており、デジタル時代のコンテンツの提供や流通・販売のプラットフォーム作りに深く関わっていた人物です。
そのローズ氏がBBC退社後に作ったのがzeeboxです。このアプリはテレビ番組がユーザーと繋がるためのあらゆるサービスを提供しているといえるサービスで、視聴者はこのアプリを通してテレビ番組に関する意見を共有したり、ユーザー参加型の番組に参加したり、番組内に登場するグッズを直接アプリ内から購入したり、オススメの番組ガイドの作成までやってくれる優れもの。 現在はイギリスの他、アメリカ、オーストラリアの3カ国でサービスを提供しています。
ローズ氏の言葉で言えば、テレビ番組の「Discovery(発見)、Social(社会)、 Information(関連情報取得)、 Participation(参加)、 Shopping(購入)」が1つのアプリで実現できるアプリです。
まずzeeboxの具体的な説明に入る前にローズ氏は、現在のテレビが直面している状況について語りました。
ローズ氏の認識では、今日テレビ産業は新しい文化、ユーザー参加型視聴文化の台頭を迎えており、それは今までになかった産業の誕生と言えるだろうとのこと。これからどんな新しい現象が起こるかに常に関心を払い、広げていく必要があるでしょうと語っています。
かつてのテレビの視聴というのは個人的なもので、みながそれぞれ別々に番組を見ていて、繋がり合うことはありませんでした。
しかし、ソーシャルメディアの台頭と容易に扱えるアプリの登場によってテレビを通して人と人が繋がりあうようになりました。現在はまだ製作者はテレビ番組を勝手に作り、ユーザーはそれに対して勝手にツイートしたりしている状態で分断されています。しかし段々とテレビ製作者側もあらかじめユーザーの参加を前提とした番組作りをするようになってきているとの認識を示しています。
この辺の認識は日本のテレビ局にも徐々に浸透してきており、この次のセッションでは日本のテレビ局の参加型番組の取り組みを紹介しています。
Discovery(番組の発見ガイド)
アメリカなどでは特にそうですが、テレビで放送されるコンテンツは大量です。そこから自分の好きな番組を見つけるのはなかなか大変なことです。zeeboxはまずユーザーが見たい番組を探しやすくする機能を提供しています。
zeeboxのトップページでは、現在ソーシャルメディアでバズっている番組を表示、リアルタイムでどの番組が人気があるのかを一目でわかるように表示します。さらに人が番組に対してどのようなコメント・意見を書いたり、どの番組を見ているなどのアクティビティも表示されます。これによって友人たちが今何を観ているかなどを参考に番組を見つけることが可能になっています。
番組のサムネイルをクリックするとその番組のページに飛び、どんなコメントがソーシャルメディア上で寄せられているか簡単に一望できます。
Social(共有)
番組のハッシュタグつきでツイートできる機能はもちろん、ツイート閲覧の機能も有しており、クローズドなチャットルームもついています。
この辺は日本のソーシャルTVアプリでもよくある基本的な機能ですね。
Information(関連情報を表示)
zeeboxでは各番組のページでその番組の出演クレジットや、関連ニュースのリンクを簡単に見ることができます。また番組をフォローする機能があり、関連情報の更新を取得することも可能。
また番組には「zeetags」と呼ばれるタグがついており、これをクリックすると、さらに関連情報を深追いしていくことが可能になっています。zeetagsは、出演者、作品内に出てくる車やファッション、学校やレストランのような場所など多岐にわたります。
Participation(ユーザー参加)
zeeboxでは、ユーザー参加型の番組を局とのコラボで製作しています。
NBCの人気オーディション番組「The Voice」では、zeeboxのアプリを通して投票に参加できるようにしています。また出演している審査員が気に入らない時、アプリ内ゲームでその審査員にモノを投げつけることができるという、ちょっとしたブラックジョークなゲームなども作ったそう。
クイズ番組であれば、ユーザーもクイズに挑戦できるような仕組みを作り、高得点者はテレビ番組内でも紹介したりとインタラクティブな番組作りを支えるプラットフォームとしてzeeboxは活躍しています。
Shopping(販売)
テレビCMは未だに強い訴求力を持っており、広告効果は絶大です。そうしたテレビの広告効果をダイレクトにしかもリアルタイムで購買に繋げていこうという試みをzeeboxでは行っています。zeeboxでは視聴中の番組に出てきたグッズや服、車などの商品をすぐに購入できる機能を搭載しています。
テレビの広告とは番組の途中に挿入して商品やサービスの認知拡大を計るものでしたが、このzeeboxと連動させることにより、直接購入を促進させることができます。プロダクトプレースメントもかなり捗るのではないでしょうか。
zeeboxは番組の進行コードの情報をAPIとして取得しているため、セカンドスクリーンでの表示内容も番組の進行に合わせてリアルタイムで変わっていきます。ですからCMの挿入されるタイミングでアプリでの表示もそのCMの関連情報などに変更していくことが可能になっています。
これはSpotsynchと呼ばれる機能で、テレビ広告とアプリ内広告を自動で同期させてしまうすごい機能。直接購入のページなどにクリックで誘導させることも可能でしょう。
さらにzeeboxはACR機能も搭載しており、テレビで番組市長中にアプリを起動するだけで、その音声からどの番組なのか判別をして、番組のページを表示することも可能です。
他にもGPS機能に位置情報も取得できるのでローカルライズされた情報を提供することも可能。全国にチェーンを持つレストランなどのCMと連動すれば大きな力を発揮しそうですね。
このzeeboxを立ち上げた背景としてローズ氏は、番組製作サイドが番組ごとにアプリを作っていたのでは、ユーザーは発見しにくいだろうし、一々個別にアプリを取得しなければならないし、開発も途方もなく大変。それでは大量のアプリが死蔵することになってアプリの墓場となってしまうからと語っています。
そして今後の新たな流れとしてファーストスクリーンとセカンドスクリーンの統合、つまりスマホやタブレットでいつでもどこでも番組を視聴できるようにし、その上でzeeboxの各種サービスを提供できるようにしていきたいと語っています。
またFAQにおいて、日本での展開の予定はあるかとの質問に対し、イギリスから始まったこのサービスをアメリカで展開するだけでも相当の問題と課題があったので今すぐというわけにはいかないが、いずれは日本でもzeeboxを提供していきたいと語っていました。
zeeboxは番組の発見から、共有、広がる関連情報を1ページに集約し、ユーザー参加型のプラットフォームか構築でき、購入まで促し、テレビCMとの広告連動まで1つのアプリでやってのける、まさにソーシャルTVの総合プラットフォームと呼べるようなすごいサービスです。
特に番組のタイムシートをきちんとテレビ局から情報を提供されていて、テレビ局との協力関係を築けているのが大きい。これはテレビ局側の情報公開の姿勢も大きいですね。
日本ではNHKがようやくAPIを公開しましたが、それで取得できる情報はまだまだ非常に限られたものです。日本でzeeboxがサービス展開するには、テレビ局側の情報公開の姿勢の変化が必須となるでしょう。
【ソーシャルTVカンファレンスの全レポート一覧はこちら】
ソーシャルTVカンファレンスレポート①:zeebox創業者アンソニー・ローズ氏のセッション
ソーシャルTVカンファレンスレポート②:日本のユーザー参加型テレビ番組事例
ソーシャルTVカンファレンスレポート③:テレビ広告の真(新)の実力を考える
ソーシャルTVカンファレンスレポート④:どうなる?どうする?ソーシャルテレビ
ライター紹介
杉本 穂高(Hotaka Sugimoto)
ブロガー、ソーシャルテレビ推進会議メンバー。BLOGOSにも参加。 映画レビュー、映像ビジネスモデル、映像文化論などを主なテーマに、映画、テレビ、オンデマンドなど、映像というオールドメディアのビジネスがインターネットの発展とともにどう変わっていくかを日々追いかけています。最近では真夜中の映画祭を主催するなど活躍の場を拡大中。
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