SAPが2年前に発表したインメモリデータベースが急速な進展を遂げている。5月の「SAPPHIRE NOW 2013」ではデータベースからプラットフォームへ拡大を明らかにし、10月25日まで米ラスベガスで開催された開発者向けイベント「SAP TechEd 2013」では、全クラウド製品のHANAプラットフォームへの移行戦略を改めて打ち出した。イベント中、SAPでHANAのプロダクトマーケティングを担当するKen Tsai氏に、会期中発表した最新のサービスパック「HANA SP7」(提供開始は11月)を中心に話を聞いた。
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「HANA SP7」を発表しました。
Tsai氏 : HANAはインメモリデータベースとしてスタートし、プラットフォームに進化しています。データの管理だけではなく、プロセスのワークロードも同一のプラットフォームを利用し、アプリケーションプラットフォームにも拡大しています。データ管理側では、データのプロセス、予測分析、テキスト分析、地理情報の付加と進化し、アプリケーションプラットフォーム側ではアプリケーション開発機能を強化しています。
HANA SP7のフォーカスもアプリケーション開発機能です。アプリケーション開発者の体験を広げるという点では、オブジェクトリレーショナルマッピングのためのCore Data Servicesを導入しました。データフェデレーション機能のSmart Data Accessでは、データソースとしてTeradataなどに加えSP7でOracleとMicrosoft SQL Serverに対応しました。Hadoop統合も強化しています。Hadoopでは全てのHadoopディストリビューションのサポートを実現していきます。中でも、HortonworksとIntelの2社とは各社のHadoopディストリビューションの再販で提携しました。
このほか、テキスト分析辞書ではカスタム辞書機能が加わり、ライブラリもデータベース内の情報追跡と品質維持のためのデータクオリティライブラリなどを追加しました。クライアントベースで利用できるIDEを用意します。
データ管理側では、高可用性と災害復旧を改善しました。1対Nのフェイルオーバー、スナップショットなどです。HANAはBusiness Suite(SAPのERP製品)に対応しており、ミッションクリティカルなプロセスを支援します。
5月に発表したPaaS「HANA Cloud Platform」の下でプラットフォームを強調しています。
Tsai氏 : 1000社以上のISVがHANA上でアプリケーション開発を行っています。会期中、SAS Instituteとの提携を発表しました。SASの分析アプリケーションが直接HANA上にのるもので、共同で深いレベルでの統合と最適化を図ります。
また、我々の人事クラウドSuccessFactorsの拡張機能をHANA Cloud Platform上で構築できるパッケージも用意します。Accentureがソリューション構築中で、このほかにも15~25社程度が"クラウドファースト"タイプのアプリケーションを構築しています。
データベース最大手のOracleがインメモリコンピューティング分野を強化しています。HANAの差別化は?
Tsai氏 : Oracleの計画では2014年にベータリリースと聞いていますが、HANAは2年前から提供されています。Oracleを尊敬していますが、まだどんなインメモリデータベースなのかわかりません。また、Oracleだけでなく、今後主要なデータベースベンダーがインメモリに向かうと予想しています。
HANAは2年先んじただけでなく、HANAはプラットフォームに進化しており、エコシステムを拡大しています。今後、我々がいかに速く展開できるかが大切だと思っています。これにあたり、クラウド分野を提供しています。クラウドで提供することで、HANA導入の敷居が下がるからです。
SAP顧客の多くがOracleデータベースを利用しています。これらの顧客にどうやってHANAを利用してもらうのでしょう? 戦略は?
Tsai氏 : ビジネスでのバリュー、ITでのバリューの2つの価値を作ります。
ビジネスでは、Business SuiteなどのSAPアプリケーションをHANAで動かすのか、他のデータベースで動かすのか(HANAはBusiness SuiteやBusiness Warehouse―SAPのBI―向けに最適化されている)。単に高速になるだけでなく、管理をシンプルにして冗長なデータコピーを削減でき、データモデルを簡素化する。システムによりますが、HANAにより土台となるデータ構築を40%程度削減することも可能です。つまり、ITアーキテクチャがシンプルになり、管理作業も軽減されます。インメモリ技術ではデータプロセスが36倍簡素化されるといわれています。
(インメモリで最初に挙げられるメリットである)スピードというよりも簡素化が重要です。簡素化により、ブレークスルーが得られます。
SAPは業務アプリベンダーからどこに向かうのでしょうか?
Tsai氏 : 我々はアプリケーションベンダー、そして技術ベンダーと思っています。すでに売上げの55%程度が非アプリケーションからで、この分野の成長が加速しています。
SAPはずいぶん前にアプリケーション以外の事業拡大という決断をして、投資を続けてきました。BusinessObjects、Sybaseなどの買収を行い、さまざまなソリューションを提供しています。これを、SAPアプリケーション向けに最適化してクラウドで提供していきます。HANAはSAPのリニューアル(刷新)の中核です。
しかし、SAPの強みはコアアプリケーションのノウハウで、ここは変わっていません。今後も継続して投資します。ここから技術とプラットフォームに拡大していきます。我々のプラットフォーム上でISVのアプリが動く――10年前には考えられなかったことですが、いまはウェルカムです。
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会期中、HANAのユーザーである米Spirit Aerosystemsの担当者から話を聞く機会があった。航空機器部品大手の同社はERP、財務、サプライチェーンとさまざまなシステムでSAPを利用している。Business Warehouseの実装がうまくいかなかったことから、当時まだ事例が少なかったHANAを早期に導入したという。
2011年12月にHANAを購入、システムは翌年7月にライブに。Business WarehouseをHANAで動かす事例が多い中、Business WarehouseをリプレースするべくHANAとBusinessObjectsに移行を進めている。「数十時間を要していたデータ処理が数分、数秒で完了する。さらに、データは過去データではなくリアルタイム。データ管理が大きく簡素化できた」と同社のIT部門マネージャーのCraig Walters氏。
最初に導入した財務部門では数日の処理が30分に短縮できた。次のアセンブリ部門ではアセンブリプロセスをジョブ単位から時間単位に変更、視覚的なダッシュボードを利用してどこに時間がかかっているかなどを把握できるようにした。この結果40%の効率化が図れ、ビジネスのやり方を変えたと満足顔で語った。