九州大学(九大)は10月30日、国内の研究機関と共同で、化学輸送モデルとアジア域における大気汚染物質排出推計を用いた数値シミュレーションを行い、2004年~2013年の10年間の東アジア域のPM2.5に関わるエアロゾル濃度の経年変化の解析を行った結果、2013年1月は特異的にシベリア高気圧強度が弱く、中国東部で高濃度汚染の起こりやすい条件となり、PM2.5の超高濃度汚染が発現したことを明らかにした。
同成果は、同大応用力学研究所の鵜野伊津志教授らによるもので、詳細は2013年11月発行の「大気環境学会誌」に速報として掲載される予定。
中国内陸から飛来する黄砂や、硫酸塩による酸性雨の問題は以前から知られているが、2009年9月に、微小粒子状物質PM2.5の大気環境基準が制定されたこと、ならびに長崎県の離島などでPM2.5環境基準の未達成が報告されるなど、新たな越境汚染の影響が懸念されるようになっている。
特に2013年に入って、北京など中国の広範囲の都市域で、健康被害をもたらすPM2.5の高濃度スモッグの観測濃度が、北京市によると例えば1月12日では時間値の最大が993μg/m3に達するなど、深刻な汚染問題が生じるようになっており、日本国内でも越境大気汚染の可能性などが報じられてきた。しかし、こうした高濃度なPM2.5が発現した原因や、日本への影響、経年的に日本の濃度環境が悪化しているか否かの議論・解析などは十分に行われたこなかった。
そこで研究グループは今回そうした問題の解明に向け、世界的に広く使われている化学輸送モデル「GEOS Chem」とアジア域における人為起源大気汚染物質の排出インベントリ「REAS Ver. 2.1」を用い、2004年~2013年にかけての約10年間の東アジア域のPM2.5成分を含むエアロゾル濃度の経年変化のモデル解析を実施したという。
具体的な化学輸送モデルの精度検証として、北京や上海の米国大使館・領事館のPM2.5測定値と比較したところ、モデル計算されたPM2.5濃度の日変動に関する再現性は高く、いずれの地点も相関係数が0.78を超えていることが確認されたという。
また、大気汚染物質の排出量を一定にしたモデル感度計算では、2013年1月では2012年1月と比較して中国華北平原を中心としてPM2.5の濃度が高いことを確認したという。これは、2013年1月はシベリア域の高気圧の強度が弱かったこと、ならびに高気圧の中心が中国東部(北京周辺)に位置し弱風で大気が安定した状態となり、中国域では高濃度になりやすい気象条件であったためであることが示されたとするほか、九州域の両年の濃度差は約2%であり、両年の平均濃度には大きな差はないことも確認されたとする。
さらに、この冬季のシベリア高気圧の強度と中国域の高濃度形成の関連性から、10年スケールの高気圧強度と汚染濃度の変動について考察したところ、北京での風速とPM2.5濃度は逆相関、温位差とPM2.5濃度は正相関であることが示された。2013年1月のシベリア高気圧の強度がこの10年でもっとも弱く、風速も弱く、温位差が最大(安定で高濃度化しやすい気象条件)であったことから、PM2.5が高濃度化したことが示され、これが、2013年1月で中国華北平原域を中心にPM2.5の高濃度が発現した大きな原因の1つと考えられるという結論を得たとするほか、福岡の平均濃度には北京と顕著な相関は見られず、中国から日本域への汚染質の輸送量には大きな増加がないことも確認されたとしている。
なお研究グループでは、温暖化が進行すると南北の温度差が少なくなり、気圧傾度が小さくなると考えられると説明しており、その結果、中国国内での大気汚染発生源対策が進まない限り、2013年1月のような高濃度PM2.5汚染の頻度が中国のCEC(Central East China:中国の華北+中央部)領域で増加すると考えることができるとコメントしている。