渋谷のBunkamuraやホンダの「Honda青山ビル」など、著名な建築物を数多く手がける株式会社石本建築事務所(以下、石本建築事務所)。同社は2013年度の社内PCのリプレースに伴い導入ソフトウェアの標準仕様を見直し、「高品質で信頼性の高いPDFファイルを同一バージョンで扱えるようになり、安心して使えるPDFで作業したい」という社内ニーズにより、Acrobat Proの全社導入に至った。これにより、文書業務のスピードアップ化が実現し、「考える時間の確保」を実現。これが顧客提案力やサービスの向上につながった。今回は、Acrobat導入を担当し、同社の情報システムを統括する山本章雄氏、小谷竜也氏に話を伺った。

石本建築事務所とは

石本建築事務所は、昭和2年に創業、86年の歴史(2013年現在)を持つ国内有数の建築事務所だ。東京、札幌、名古屋、大阪、福岡に支店を持ち、先に挙げた渋谷のBunkamuraをはじめ、各支店において地域特性にマッチした、庁舎・オフィスビル、教育施設、病院・福祉施設、ホール、図書館・美術館、再開発など、多岐にわたる用途の建築設計やコンサルティングを行っている。社員数320名のうち、一級建築士が200名近い専門家集団だ。 営業担当者も資格保有者が多数とのことで、今回お話を伺った二人も一級建築士の資格を有したシステム担当者である。「業務がわからないと基本的にシステムは構築できない」(山本氏)というように、現場のニーズに即したシステムを提供している。ちなみに、同社のシステムの構築・管理は、山本氏と小谷氏のほぼ二人で行っているそうだ。

株式会社石本建築事務所 企画総務 次長 山本章雄氏

株式会社石本建築事務所 企画総務 主任 小谷竜也氏

Acrobat全社導入前の状況

建築設計を行う同社では、提案書や図面を含む設計図書など、多くの文書を作成する。通常の文書作成にはMicrosoft Office、図面作成にはAutoCAD、プレゼンテーション用にはMicrosoft PowerPointだけでなく、Adobe IllustratorやAdobe Photoshopなどを使用しており、これらの文書のオリジナルファイルは、社内ではファイルサーバーなどを通して共有され、社外とはPDFを中心にやりとりされている。

現場では図面を中心に未だに多くの"紙"を扱う業務が存在する。図面はモニタ上で確認するよりも、紙に出力して目視するほうがチェックしやすいためだ。「アナログをうまく使いながらデジタル化していくのが現在の業務にマッチしている。お客様は出力されたものも見たいはず。従って、管理は電子データで行ったとしても、チェック作業は紙の方がベター」と山本氏は語る。

文書管理には富士ゼロックスのDocuWorksを5年前から活用している。複数の文書ファイルの管理に便利なうえ、アドビ システムズ純正のPDF生成エンジンを搭載していたこともDocuWorks導入の決め手となったという。

Acrobat全社導入前の課題 - 文書業務の効率性向上

Acrobatも部分的には導入されていたが、バージョンやエディションが統一されていなかった。そのため、システム担当者は、社員からの質問への対応にもエディションやバージョンの確認から始めなければならず、サポートコストもかさみ、ひと苦労だったという。AcrobatでPDFを生成するにしても、AcrobatがPCにインストールされていないユーザーは、Acrobatがインストールされている共用PCまで移動して利用する必要があり、非効率な業務フローを解消したいという思いがあった。また、特に東日本大震災以降、一部社員による利用部門では、復興事業に関する業務における文書の共通フォーマットとしてPDFが利用されていたこともあり、PDF活用ニーズが高まりつつあった。

ほかに抱えていた課題としては、全文検索システムとの連携があげられる。同社は、過去の文書資産をデータベース化しており、全文検索システムで検索して再利用できる環境が構築されている。過去の知見を蓄積した文書資産にすばやくアプローチできることが、同社の競争力の源泉になっている。このシステムではPDFは検索のためのインデックスとして利用されており、PDFのテキストを検索して元文書を探し出せるようになっている。同社では新たな案件をスタートする際、過去の類似資料を探すことが第一歩となるため、全文検索に対応する"品質の高いPDF"を使用することは業務効率化の観点で極めて重要なものであった。

「一度根付いた業務のやり方をあえて変更する必要はありません。必要な機能を使って、現場がその時にやりたい業務を実現できるアプリケーションを使い分けることができる。そのような環境を用意しています」と山本氏が語るように、最終成果文書など高品位なPDF文書の制作・編集作業にはAcrobat、そしてそれらの文書のもととなる複数のファイルの管理ではDocuWorksを使うことも多い。この使い分けが同社の業態にはあっているという。ただし、DocuWorksのバージョンアップにともない、PDF生成エンジンがアドビ システムズ純正でなくなった。先述のとおり、同社ではPDFの品質を重要視しているので、この点も課題として浮かび上がってきた。

Acrobatの導入理由 - 現場の「PDF活用ニーズ」が導入の背景に

前述の通り、石本建築事務所におけるAcrobat全社導入の最大の推進要因は、現場におけるPDF活用ニーズの存在だ。例えば、Microsoft Office文書やAutoCAD図面からのPDF変換はもとより、提案書へのしおり付与や編集、図面文書への注釈付与など、そのニーズは多岐にわたる。Acrobatのメリットは、すでに活用している現場からの口コミで広がり、気づいた時には社員の間で活用ノウハウまでもが蓄積されていたほどであったという。

図面PDFに注釈を入れたサンプル

業務のスピードアップが命題になっている昨今、業務用PCのデスクトップアプリケーションについても、利用現場が容易に使えるものを採用する必要がある。「Acrobatなら現場の人間が楽に使える。面倒な手順を踏むことなく使ってもらえるのは、業務スピードアップには欠かせないこと」と山本氏は指摘しているが、これは現場を知っているシステム担当者であるからこその言葉である。

また、前述した全文検索システムをきちんと活用するために、品質の高いPDFを利用する必要があった。作成したPDFの文字の一部が欠損していたり、紙からスキャンしたデータの文字認識精度が悪かったりすると、文書の検索がスムーズに行かなくなる。その点、Acrobatで作成したPDFの品質、高精度な文字認識機能(OCR)は、全文検索システムの効果的な運用の大前提となるものだったのだ。

全文検索システムのキーワード検索結果画面

システムを整備する導入担当者側からしても、全社員に同じ環境を提供するほうが、トレーニング、コストの両観点からも効率的だ。「社内のPC環境の標準化を策定する上で、導入コストが見合えば、すべてのPCを同じ環境にしてしまったほうが費用対効果が高くなる」という判断もあったことに加え、社内PCのリプレースと包括ライセンス契約の提案が時期的にマッチしたこともあり、Acrobatの全社導入は実現された。また、Acrobat StandardではなくAcrobat Proを導入した理由は、「図面を中心とした設計業の文書業務に必要な機能がそろっており、またProに統一化することでインストールや管理、サポートの手間も省くことができるため」と山本氏は語っている。

Acrobatの導入成果 - スピーディな文書業務とPDF品質の安心感

導入現場の成果

Acrobatの全社導入によって、現場では文書業務をスピーディかつ楽に行えるようになったという。例えば、以下のようなことがあげられる。

  • 提案書などのPDFファイルの直接編集業務が楽になった
  • PDF化された図面に注釈を入れることで、電子ドキュメントで意見交換できるようになり、作業スピードが向上
  • 全文検索システムでPDFファイルが確実に素早く探し出せるようになり、新規プロジェクトの立ち上げスピードが向上
  • Acrobatの多言語に対応したスキャンデータの文字認識機能(OCR)により、全文検索システム活用が一層容易に
  • PDFの閲覧環境がまちまちである顧客や社外取引先にも、Acrobatで作成したPDFであれば安心して提供できる

「結果として、資料作成のための情報収集、及びそのとりまとめにおいて、50%の業務スピード向上を実感しています。資料作成に要する労力の削減により、考える時間を確保できるようになり、これが顧客提案力やサービス向上につながると考えています」と小谷氏は語る。

情報システム部門での成果

情報システム部門としても、Acrobat導入により以下のような成果を上げている。

  • ヘルプデスクやサポートの手間の減少と時間の短縮化
  • 包括契約による導入で、Acrobatだけでなく、Creative Cloud製品も含めたライセンス調達コストの削減に成功
  • 利用者に同じ環境を提供することでユーザーの混乱を回避

「ヘルプデスクやサポート、およびソフトウェア展開やアップデートなどの負担は、標準化導入により、感覚として三割程度減りました」と山本氏は語る。

前述の成果の中でも、包括ライセンス契約による導入コストの削減は大きかったという。この包括ライセンス契約は、一定の本数以上のアドビ システムズ製品の購入に適応される利用サービス型の購入形態で、初期導入コストを低く抑えることができる、利用コストを複数年に渡り平準化できる、ソフトウェアの資産計上が不要になる、などのメリットがあるため、アドビ システムズ製品を数多く導入する企業には最適だ。石本建築事務所の場合、Acrobatの全社導入に加え、これまで利用していたIllustratorやPhotoshopといったCreative系のソフトウェアも合算することで、アドビ システムズ製品全般にかかる導入、管理コストを大幅に削減することができた。

今後の取り組み - Acrobatの一層の活用と、電子フォームに注目

Acrobatを全社導入したことで、PDFの生成や編集などを誰もが使えるようになり、ユーザーは一層の活用意識が芽生えてきたそうだ。そのため同社では、社内セミナーを開催し、随時基礎知識トレーニングを実施しているという。しかし、ユーザーが忙しくてなかなか時間がとれないのが悩みどころだそうだ。そのため、社員が手すきの時間にリテラシーを向上できるように、今後オンデマンドで使える啓蒙ツールを検討したいという。これはアドビ システムズ社が提供するリソースも活用しながらフォローしていくそうだ。

さらに、PDFの一層の利活用を進めて行くなかで、「Adobe FormsCentralが気になっている」と小谷氏は語る。FormsCentralで電子フォームを利用して、顧客満足度調査や、営業の報告書収集などを行えないか模索中だ。特に営業の報告書は、外部から携帯端末で報告してもらうなど、手すきの時間を有効活用することを考えている。

設計図面や提案書は、建築業では極めて重要な文書だ。これら文書の品質と長期保存性の確保により、次世代へのナレッジ移転がうまくいく。Acrobat Proはそれを支えている。同社においてAcrobat Proは、今後の業務スピードアップを推進し、高品質なナレッジ蓄積と活用を実現する強力なツールになるだろう。