富士通と富士通研究所は10月30日、車載レーダなどで使われるミリ波レーダの干渉シミュレーション技術を開発したと発表した。
ミリ波レーダは、物体にミリ波帯の電波を送信して、その反射波を受信することで、物体の距離や速度などを検知する。近年、車載レーダなどでは76GHz帯ミリ波が利用されており、車の周囲の障害物の検知や、交通状況に応じたクルーズコントロール、踏切や道路などに設置して障害物の検知などに利用されている。また、交通状況を監視するインフラレーダなども製品化されている。一方で、歩行者などの小さな対象を検知するために分解能の向上が求められており、今後は、広い周波数帯域を使ってより高い分解能が得られる79GHz帯ミリ波の普及も見込まれている。76GHz帯ミリ波は、送受信機の回路構成が簡単にできるという特徴から、FM-CWレーダなどの連続波を使った変調方式が主に使われてきた。また、79GHz帯ミリ波は、近年の回路技術の向上や、より広帯域な周波数が割り当てられていることから、スペクトル拡散レーダなどの利用も見込まれている。このように、様々な方式のミリ波レーダが混在して使われるようになるため、干渉の問題が起きないかを詳細に検討することができるシミュレーション技術が望まれていた。
ミリ波レーダでは数100MHz~4GHzという広い周波数帯域が使われている。異なる方式のレーダ間の干渉を計算するには、従来の方法では細かい周波数ステップで広帯域に渡って計算を行う必要があり、大きなメモリ空間と計算スピードが必要となるため、汎用のPCで実行するのは困難だった。また、実際にレーダを試作し、実験的に干渉の影響を調べる方法もあるが、レーダ間の周波数や時間的な同期を正確にとりながら実験を行うのは困難であり、ある限定された条件下の実験に限られていた。
今回、FM-CWレーダとスペクトル拡散レーダの干渉の数理的モデルを作成し、精度を落とさずに解析を簡略化することで、汎用のPCを用いて実用的なメモリ容量と計算量で干渉の解析を実現するシミュレーション技術を開発した。
異なる方式のレーダ間の干渉を計算するには、従来の方法では細かい周波数ステップで広帯域に渡って計算を行う必要があるため解析時間が増大する。解析周波数や時間ステップを粗くすることで、解析時間を早くすることも可能だが、その場合は解析精度が悪化する。今回、数理モデルにしたがって計算する際に、精度に影響を与えない周波数成分を省き、必要最小限の周波数や時間ステップで計算することで、精度の維持と高速化の両立を実現した。
同技術を用いて、スペクトル拡散レーダがFM-CWレーダから受ける影響をシミュレーションした結果である図3を見ると、干渉がない場合には、物体が存在する距離にのみ信号を検出できるが、干渉の影響がある場合には、物体が存在しない距離の2か所に信号を検出しており、誤検出が起きていることが分かる。同様にFM-CWレーダがスペクトル拡散レーダから受ける影響のシミュレーションができる。このような、干渉の影響が汎用のPCでも簡単に計算できる。また、両レーダ方式のパラメータ(周波数・変調符号・変調幅・タイミングなど)を変化させることで、干渉がどのように変化するかも簡単に計算することが可能になっている。
同技術により、異なる方式のレーダ間の干渉が、どのような状況でどの程度発生するかを定量的に計算することが可能になる。また、干渉回避アルゴリズムの開発や検証がシミュレーションで行えるため、物体の認識漏れや誤検出を防止し、信頼性の高い車載レーダの開発が期待できる。今後は、2013年度末に向けて、開発した干渉回避アルゴリズムの実験検証などを進めていく。また、この干渉回避手法を実装した製品化を順次進めていく予定とコメントしている。