花王は10月28日、体臭成分の1種「ヘキサン酸」について、選択的消臭技術につながる知見を得ることができたと発表した。

成果は、花王 感性科学研究所の研究者らによるもの。研究の詳細な内容は、9月5~7日にかけて宮城県仙台市で開催された「日本味と匂学会第47回大会」にて発表された。

自然界に存在する多くのにおい分子は、嗅覚受容体によって認識される。嗅覚受容体の数は動物種によって異なるが、鋭い嗅覚を持つとされるマウスで約1000種、ヒトでは約400種類の嗅覚受容体があることが確認済みだ。1つのにおい分子は2個以上の嗅覚受容体によって認識されることが多く、ヒトや動物は活性化する嗅覚受容体の組み合わせによって、自然界に存在する数10万種類のにおい分子を嗅ぎ分けることができるのである。

生活環境のにおいは多数に及ぶ。花や果実などのかぐわしい香りもあれば、避けたくなるような、いわゆる悪臭もある。感性視点によるものづくりのための基盤技術研究の一環として、五感に関する技術構築を進めているのが、同社の感性科学研究所だ。悪臭の認識に関わる受容体の活性化を抑制するにおい分子を利用することで、悪臭の感じ方を変えることができるのではないかという考えの下、嗅覚受容体に着目したにおいの研究も行われている。

実験では、まずヒトの嗅覚受容体を発現させた培養細胞の評価系を用いて、400種のヒト受容体の内、どの受容体がヘキサン酸によって応答するかが調べられた。細胞に発現させた嗅覚受容体が活性化すると、細胞内の情報伝達物質が増加する。この情報伝達物質の増加をにおい応答として測定した結果、「2W1」、「10A6」、「51E1」、「51I2」、「51L1」の5つの嗅覚受容体がヘキサン酸により活性化されることが明らかとなった(画像1)。つまり、ヒトはヘキサン酸を5つの嗅覚受容体でとらえ、その刺激により、においを感じていると考えられるという。

画像1。におい受容体の特定

ヘキサン酸によって活性化される嗅覚受容体に対し、香料成分をヘキサン酸と同時に加えることで、受容体の活性化を抑制する「アンタゴニスト作用」を有する香料成分の探索も行われた。約140種類の香料成分の中から、フローラルの香りの、「フロルヒドラール」、「ブルゲオナール」、「イソシクロシトラール」の3種類をそれぞれ同時に加えると、ヘキサン酸によって活性化が認められた5つの嗅覚受容体の内、4つの受容体の活性化が50%以下に抑えられることが確認された(画像2)。これは、香料成分がヘキサン酸の嗅覚受容体への結合を拮抗的に防いだことによるものと考えられるとする。

画像2。ヘキサン酸による嗅覚受容体活性化を抑制する香料成分

次に、前述した3種類のヘキサン酸による嗅覚受容体の活性化を抑制する香料成分を添加することで、ヘキサン酸臭を実際に抑えられるかどうかを官能評価でもって調査が行われた。脱脂綿にヘキサン酸を染み込ませたものを入れたガラス瓶が一定時間放置され、その時のにおいの強さを0から5の6段階評価で「5」と設定。その後に、前述した3種類の香料をそれぞれ染み込ませた脱脂綿を同時に加えた時のヘキサン酸臭の評価が行われ、すると実際ににおいの強さの減少が認められた(画像3)。

画像3。ヘキサン酸を抑制する香料の効果

におい物質の認識に関わる嗅覚受容体の特定は、基礎科学の分野で進んでいるが、日用品の開発への応用研究については今回が初めてと考えられるという。同社は、特定のにおいを別のにおいで抑制する現象について科学的に解明した今回の成果について、快適な生活実現に貢献するものづくりに応用していくとしている。