大阪大学(阪大)は、半導体などの各種材料物性評価に有効なテラヘルツ分光法にエリプソメトリを適用したテラヘルツ・エリプソメータを開発したと発表した。
同成果は、同大 レーザーエネルギー学研究センターの長島健助教らによるもの。日邦プレシジョンと共同で行われた。
0.1~10THzの電磁波に対する物質の応答を調べるテラヘルツ分光技術は、1980年代後半にフェムト秒レーザを用いてテラヘルツパルスを発生・検出するテラヘルツ時間領域分光法が開発されてから急速に発展してきた。中でも、テラヘルツ分光によって、半導体中自由キャリアの密度および移動度という、半導体の電気特性を特徴づけるパラメータを非破壊・非接触で直接的に測定できることから、早くから産業応用への展開が期待されていた。しかし、従来のテラヘルツ分光技術では、金属電極が設けられたデバイスあるいは高ドープ半導体のような、不透明な材料の評価が困難であったため、用途が限定されていた。
今回、研究グループでは、テラヘルツ時間領域分光法に反射型エリプソメトリを適用したテラヘルツエリプソメトリを独自に考案し、透明・不透明に関わらず幅広い材料のテラヘルツ帯複素誘電率スペクトルの測定を可能にした。また、半導体向けに、測定された複素誘電率スペクトルから自由キャリアの移動度および密度を独立に決定する手法を開発した。
一方で、テラヘルツエリプソメトリでは、テラヘルツパルスの偏光の状態を精密に測定する必要がある。これには偏光子が用いられるが、偏光子の消光比と呼ばれる性能指数がエリプソメトリの測定精度を大きく左右する。従来のテラヘルツ帯偏光子の消光比は不十分だったが、独自構造の高消光比ワイヤグリッド偏光子を開発し解決した。これらの技術を組み合わせて、テラヘルツ・エリプソメータを実用化したとしている。
開発したテラヘルツ・エリプソメータは、参照信号測定が不要なため、その場で試料のテラヘルツ帯複素誘電率スペクトルを高精度に測定でき、製造ラインでの非破壊・非接触インライン検査に適している。近年、開発されているワイドギャップ半導体や高誘電率材料などの先端材料は、電極作製が困難な場合がほとんどであり、従来の接触法による誘電特性や電気特性評価が非常に困難である。開発したテラヘルツ・エリプソメータはこれら先端材料およびそれを用いたデバイスの非破壊・非接触評価を可能にしており、広範な応用が期待される。さらに、得られた電気特性をデバイス設計のパラメータに迅速に反映できるため、開発コストの削減およびリードタイムの短縮が期待できる。
なお、開発した装置は「Tera Evaluator」として、日邦プレシジョンから販売される。今後は、半導体ウェハだけでなく、基板上のエピタキシャル膜の電気特性評価や、高誘電率材料などといった半導体以外の先端材料の誘電特性評価へ向けて開発を進めていくとコメントしている。