神戸大学は10月18日、北海道大学らと共同の研究で、骨細胞が免疫臓器や脂肪組織をコントロールして全身の健康に影響を与えていることを明らかにしたと発表した。

今回の研究は、神戸大学医学部附属病院 血液内科の片山義雄講師と北海道大学 大学院歯学研究科 口腔先端融合科学分野の佐藤真理助教らの共同研究グループによるもの。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業「さきがけ」の一環として行われ、研究成果は学術雑誌である米国科学雑誌「Cell Metabolism」のオンライン版に、10月17日(米国時間)に掲載された。

研究チームは、遺伝子操作により生体内で骨細胞にダメージを与えたマウスの全身を解析したところ、このマウスは免疫に重要な白血球の一部が枯渇し、脂肪が消えてやせ細ったという。この実験結果から、骨細胞は免疫細胞を育てるゆりかごである骨髄と胸腺の環境を整備し、全身の脂肪組織や肝臓での脂肪の貯蓄と出入りをコントロールしていることが示された。

具体的には、ジフテリア毒素受容体を骨細胞のみに発現させた遺伝子組み換えマウスにジフテリア毒を投与すると、骨細胞がダメージを受けて骨細胞同士のネットワーク構造が乱れ、その血液中では、免疫に重要なBリンパ球やTリンパ球が著しく減少したことが確認された。

ダメージを受けて弱った骨細胞

詳細に調べた結果、骨細胞がダメージを受けることで単純にリンパ球そのものが影響を受けるのではなく、Bリンパ球を育てるゆりかごである骨髄ストローマ細胞およびTリンパ球を育てるゆりかごである胸腺ストローマ細胞が消えてしまうためであるということが判明し、見た目にも胸腺がしぼんで小さくなっていることが分かったという。骨細胞はリンパ球の生育環境を整備することで免疫をコントロールしていると同研究チームは考えている。

骨細胞が弱ったマウスでは胸腺がしぼみ、脂肪がなくなる

また、骨細胞が弱ったマウスは体重が減り、食べているのにやせこけていくこともわかったという。これは全身の皮下脂肪や内臓脂肪がなくなってしまうことが原因で、脳視床下部の摂食中枢を破壊した上で骨細胞にダメージを与えたマウスでは同様に脂肪がなくなるが、肝臓だけには脂肪がたまって激烈な脂肪肝となるという。研究チームでは、骨細胞には全身に適切な量の脂肪を保つ働きがあるほか、脳と協調して肝臓への脂肪の貯蓄と出入りをコントロールしていると考えている。

脳視床下部の摂食中枢を破壊し、骨細胞にダメージを与えたマウスは脂肪肝になる

この骨細胞にダメージを与えたマウスで観察される胸腺の萎縮と脂肪の消失は、2匹のマウスの血液の流れをつなげて共有させるパラバイオーシスという方法で、血液中のホルモンやミネラルなどの液性因子を正常マウスから供給してやっても回復しなかったという。骨を作る骨芽細胞がホルモンを介してすい臓や精巣をコントロールしていることはすでに明らかになっているが、骨に埋め込まれた骨細胞がホルモンやミネラルを介さずに離れている胸腺や脂肪をコントロールしていることは大きな発見になったという。

研究のまとめ

研究チームでは、今回の研究の成果により医療従事者のみならず一般の人々が抱く骨のイメージを塗り替え、骨をターゲットとした新たな治療法や健康法の開発につながると考えている。また、免疫不全や脂質代謝疾患のある患者に、標的臓器に加えて黒幕的臓器である骨をターゲットにした治療を施すことで、より根本的な治癒・回復が期待できるのみならず、健康増進・病気予防のためのトレーニングや食生活に、骨をターゲットにしたプログラムを取り入れることで、より良い効果が得られ健康な成長・発育やサクセスフルエイジングにも寄与すると考えている。