文京区は春日の地に、小石川後楽園の緑に寄り添うように鎮座するのは、日本初の全天候型多目的スタジアム「東京ドーム」。後楽園球場の代替球場として、1988(昭和63)年3月18日に開場しました。知らない人はいないその真っ白なカタチについて、株式会社東京ドーム 広報IR室の村上さんにお話をうかがいました。
――東京ドームの設計者について教えてください。
竹中工務店です。
――構造的な理由が大きいと思いますが、何かモチーフやこのカタチに込められたデザインコンセプトなどはありますか?
アメリカ合衆国のミネソタ州ミネアポリスにある、野球やアメフトなどに使用される多目的ドーム「ヒューバート・H・ハンフリー・メトロドーム」がモデルです。加圧送風ファンによって空気を送り込み、ドーム内の気圧を外よりも0.3%高くして屋根膜を支えています。この気圧差は、ビルの1階と9階ぐらいに相当します。
ちなみに、加圧送風ファンはドームを囲むようにして、スタンド最上部に36台設置されています。イベント開催時は10~18台が稼働しますが、閉場時は2台の稼働で十分対応可能です。
――「空気圧で膨らませる」という方式と、白い屋根をモデルにしたのですね。白さを維持するためのメンテナンスはどのように行なっているのですか?
屋根に使用している膜材は、埃やゴミを雨で自然に洗い流すという特徴を備えていますので、特に清掃などは行っていません。
――マス目状にステッチが施されたキルティングのようで、一見、フワッとしているように見えますが、屋根の部分には、どのような素材が使われているのでしょうか?
28本のワイヤーを8.5メートル間隔で縦横に並べて、その間に二重構造の膜(厚さは内膜が0.35mm、外膜が0.8mm)が張られています。これは東京ドームのために開発されたもので、フッ素樹脂コーティングしたガラス繊維膜材が使用されています。
――この膜剤は硬いのですか?
例えるなら、「反発力の弱いトランポリンに乗った感じ」というイメージです。
――見た目のイメージに近いですね! また、「耐用年数は20年以上」、「総重量は400トン」と聞きましたが、張り替えなどは行われているのですか?
定期的に検査を実施していますが、強度にまったく問題がないので、開場以来25年経ちますが張り替えも行っていません。
――他の球場と異なる構造的な特徴はありますか?
近くによく氾濫する神田川があるので、河川に流れ込む水量を調整するために、ドーム地下に3,000トンの貯水槽と小規模の浄水場があります。屋根に降った雨水を貯水槽に集めて、東京ドームでの中水(トイレの洗浄用)などに利用しています。
――その他、造形についての知られざるエピソードがあれば教えてください。
隣接する小石川後楽園への日照や風の影響を考慮して、屋根が傾斜しています。また、建物全体を5メートル掘り下げてもいます。
――よく見ると、全体が斜めになっています! 巨大な建築物として、周囲の環境と調和するべくさまざまな配慮がなされているのですね。余談ですが、「東京ドーム約●個分」といった表現をよく見かけますが、いつころから言われるようになったのでしょうか?
以前は、容積は「霞ヶ関ビル○個分」、面積は「後楽園スタヂアム○個分」と表現されていたようです。そのため、後楽園スタヂアムの代わりにできた東京ドームが面積の表現に使われるようになり、(後楽園スタヂアムにはなかった)屋根がついたために、容積を表現する際にも使用されるようになったそうです。
――最後に、毎日見ている広報さんが一番好きな"東京ドームの表情"を教えてください。
人それぞれだと思いますが、個人的にはライトアップされた正面の表情が一番いいと思います。
――ありがとうございました。
東京ドームのライトアップは屋根を縁どるブルーのラインが印象的で、昼間とは違った顔を見せてくれます。"やわらかそうに見える"建築物というのも珍しいですね。スポーツ観戦などで東京ドームを訪れる際には、ぜひ建物自体もじっくり見てみてください。