海洋研究開発機構(JAMSTEC)は10月17日、情報通信研究機構(NICT)と共同で高速衛星通信を用いた陸上からの無人探査機遠隔操作(テレオペレーション)試験に成功したと発表した。
同試験は、超高速インターネット衛星「きずな」の高利得アンテナを利用して、JAMSETC横須賀本部と相模湾初島沖を航行するJAMSTEC所有の海洋調査船「かいよう」とを相互通信することにより、海中の無人探査機「おとひめ」制御システムへのテレオペレーションを実施したもの。
近年、海洋観測で得られるデータは、資源探査や環境・気候変動、地震・津波災害など、日本が抱える様々な課題の解決に必要なものになっている。その観測精度の向上させ、観測範囲を拡大することにより、大規模かつリアルタイムな情報収集を行えるとともに、その情報を効果的に活用することが望まれている。そのためには、大容量のデータを高速で通信する海洋ネットワークが必要になるが、現状では汎用性が低く伝送速度も限定的なブロードバンドサービスしか提供されていない。
また、これまでJAMSTECとNICTは、衛星を介した海上から深海にまで至るリアルタイムな「海のブロードバンド化」について検討を進めてきたが、これまでの無人探査機運用は、探査機を目的の海域まで支援母船で運搬し、研究者やオペレータも乗船して現場に行き、場合によっては海上に長期間滞在するという、非常に時間と人手がかかるものだった。さらに、無人探査機で得られたデータの分析や解析も、船上では詳細に行えないため、基本的には下船後となってしまい、リアルタイムな対応が難しく、観測現場では、こうした現状の改善を強く望んでいた。
今回共同研究チームは、テレオペレーションに必要となる「きずな」が提供する超高速の衛星通信リンクを船上に確立するために、アンテナの高精度な初期捕捉および衛星トラッキングシステムを開発する一方で、負荷分散や自己復旧能力を持つネットワーク技術で構成された「おとひめ」制御システムを開発。これまで、陸上において各システムの通信試験、結合試験を実施するとともに、各機能とシステム構成について検討し、実機を用いた海域試験で高速衛星通信による無人探査機テレオペレーションに成功した。
具体的には、JAMSTEC横須賀本部には「きずな」との通信を行う大型車載地球局と「おとひめ」の陸上制御コンソール(コンピュータを操作するために使う入出力装置のセット)を設置し、一方で「かいよう」船上には衛星トラッキングシステムを備える船舶搭載局と「おとひめ」の船上制御コンソールを設置した。「おとひめ」は「かいよう」と直径1mmの光ファイバケーブルで連結されており、光通信にて船上制御コンソールに「おとひめ」に関するすべての情報が送信される仕組みになっている。船上制御コンソールでは、受信した情報を船上の船舶搭載局に配信し、「きずな」を経由してJAMSTEC横須賀本部に送信され、大型車載地球局がこれを受信することで陸上制御コンソールの当該情報が展開される。陸上制御コンソールでは、オペレータがモニタリングしながら、同経路にて「おとひめ」への制御指令を発信することで「おとひめ」のテレオペレーションを実現した。
内容としては、簡易コントローラーを用いた多関節マニピュレータによる模擬作業試験と、専用のアクチュエータ操縦卓を用いた「おとひめ」の航行操作試験を実施した。いずれの試験においても陸上のオペレータは、ほぼリアルタイムに「おとひめ」が撮影した海底のハイビジョン映像やその他3種類のTVカメラ映像、「おとひめ」のステータスデータ(探査機の状況を表すデータ)などをモニタリングしながら操作。また同試験では、陸上制御コンソールと船上制御コンソールとがTV会義システムで中継されており、オペレータと現場との音声によるコミュニケーションだけでなく、現場の状況を視覚的に伝えることもできることが確認された。
今回の成果について研究チームでは、「おとひめ」と「きずな」による技術的アプリケーションの実用性を示しただけでなく、近い将来、大きく進捗していくであろう「海のブロードバンド化」に対して、その実現性を示唆するものになると説明している。また、今後の課題として、「きずな」の高利得アンテナがカバーできないエリアにおいて「海のブロードバンド化」を拡大させていくための手段について研究開発を進めるとともに、通信の開始から自動的に遠隔操作でき、小型でメンテナンスフリーな次世代の船舶搭載局の開発に関係機関と連携して取組んでいく予定としているほか、伝送遅延や機器などの処理遅延を軽減させていくとともに、操作端末の操作性、機能性、およびネットワークの強靭性などを向上させ、今回の知見を多くの海中プラットフォームへ適用していくことを目指すとしている。