大阪大学(阪大)は、カーボンナノチューブ(CNT)の局所的な構造歪みの分布をナノレベルで光観察することに成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学研究科の河田聡教授(特別教授)らによるもの。詳細は、英国Nature Publishing Groupの「Nature Communications」に掲載された。

CNTは、炭素原子だけで構成されるナノサイズのチューブであり、鋼鉄よりも20倍強く、アルミニウムの半分の軽さで、ダイアモンドより熱伝導性が高く、電気伝導度、耐熱性、分子吸着力、異方性、分子原子の内包機能などにおいて既成の材料より優れた性能を有する。このため、ナノサイエンスはもとより、産業・医療分野などにおいて次世代材料として広範な応用が期待されてきたが、所望の種類(層数、径、掌性)のCNTを高品質かつ高歩留りで製造することは容易でなく、その実用化を阻んでいた。また、評価技術においては、原子間力顕微鏡の利用が有望だったが、真空中に試料を準備する必要があり、その場観察ができない。

今回の研究では、先端増強ラマン顕微鏡を用いることで、CNTのそれぞれの場所におけるチューブの歪みの様子をリアルタイムでその場で観察することに成功したとのことで、これにより、CNTをナノレベルで評価することが可能となった。

図1 CNTの光学像。500nm×300nm、スケールバーの長さは100nm。"CNT"という文字に描いたCNTを、開発顕微鏡を用いて観察された結果。色は歪みの程度を数値化してカラー化されている。歪みの量によって、ラマン散乱光の色が変化する

図2 文字は金属針でチューブを引っかけて引き延ばしたりねじったりして描いたもの。結果的に場所ごとに歪みの種類と量が異なる。CNTを使ったナノ電子回路などのデバイス・材料においてもこのような歪みを含むという

図3 CNTの六員環の引っ張りとねじりによる歪みの分子構造

今回、利用された先端増強ラマン顕微鏡は、河田教授が1992年に発明したナノの光学顕微鏡(近接場光学顕微鏡)を原理として、ラマン散乱分光法を組み合わせたものである。これにより、近接場光学顕微鏡の応用は一気に広がり、ナノ分解能での光学顕微鏡が広く、サイエンスと産業分野において、活用されることを期待するとコメントしている。