九州大学(九大)と山口大学の2者は10月7日、NTTコミュニケーション科学基礎研究所(NTT CS研)との共同研究により、2次元パターンのランダムさを把握する際に働く視覚の仕組みを明らかにしたと共同で発表した。

成果は、九大 基幹教育院の山田祐樹 准教授(2013年9月まで山口大 時間学研究所 助教)、NTT CS研のリサーチスペシャリストの河邉隆寛 博士、山口大 時間学研究所の宮崎真 教授らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、英国時間10月9日付けで英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

ヒトは日常的に何気なく、ランダムなパターンと整列したパターンを見分けることが可能である。例えば、街中を人々が雑然と歩いているのと、パレードなどできれいに整列して行進しているのでは、その差は歴然だ。この識別は、意識せずとも感じてしまう"当たり前"の感覚なのだが、こうした日常的な視覚体験を支える脳の仕組み、今回の場合ならパターンのランダムさを把握するための視覚処理過程については、驚くべきことに、これまでのところよくわかっていないのである。

そこで研究チームは今回、心理物理実験を通じ、パターンのランダムさを処理する脳の仕組みが存在することを解明した。具体的には、非常にランダムなパターン(画像1・A)を5秒間観察した後では、その後に表示されるパターン(画像1・B)が実際とは異なるパターン(画像1・C)のように、実際よりも整列して見えるようになることがつきとめたられたのである。

画像1。Aを5秒間観察した後にBを見ると、Cのように見える

「順応」によってパターンのランダムさの見え方が変わる、つまり「残効」が生じるということは、パターンのランダムさを処理する仕組みが脳内に存在することを示唆するという。順応とは、いわば脳が刺激に対して慣れるといった意味である。人間の脳には、目に入ってきた情報の中でもとりわけ「方位」に反応する仕組みが存在することが知られているが、傾いた線分(画像2・D)を数秒間見続けると、その方位を処理する仕組みの反応が脳内で弱まってしまう。それが「順応する」というわけだ。

その一方で、順応が起こると、脳ではそれと反対方向へ傾いた線分の処理を担う仕組みの反応が相対的に強くなる。その結果、真っすぐであるはずの線分(画像2・E)が、図2・Fのように画像2・Dとは反対方向へ傾いて見えるのだ。このような、順応の後で起こる見え方の変化が残効である。ある視覚情報について残効が生じるということは、その情報の処理に特化した仕組みが脳内に存在することを意味するという。そして研究チームはさらに実験を重ねることで、線分の傾きを処理する機構の反応の強さに基づいて脳がパターンのランダムさを判断していることを証明したというわけだ。

画像2。脳内には方位を検出する仕組みがあり、また順応し、そして残効が生じる仕組みもある

今回の研究により、パターンのランダムさの把握に関する脳の仕組みを明らかにするための決定的な行動科学的知見が得られた形である。これにより、その神経基盤の検証など、パターンのランダムさを把握するメカニズムの全容解明に向けた研究が加速していくだろうとしている。また、今回の研究を通じて明らかにされた脳の仕組みを応用することで、人工知能やロボットビジョンにおけるパターン認識やパターン合成技術の進展へつながることが期待されるとした。